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経済産業省生活製品関連産業政策最前線

転換期にある生活製品関連産業、さらなる発展に向けて

ながさわ たけし/昭和47年4月生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒業。平成8年通商産業省入省。25年経済産業省産業技術環境局地球環境連携室長、28年国際連合工業開発機関(UNIDO)ウィーン本部、令和元年経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課原子力国際協力推進室長(兼)原子力技術室長(併)廃炉産業室長を経て、2年7月より現職。
ながさわ たけし/昭和47年4月生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒業。平成8年通商産業省入省。25年経済産業省産業技術環境局地球環境連携室長、28年国際連合工業開発機関(UNIDO)ウィーン本部、令和元年経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課原子力国際協力推進室長(兼)原子力技術室長(併)廃炉産業室長を経て、2年7月より現職。

繊維・アパレル、服飾品、住宅・建材・住宅設備、家具・インテリア、生活・スポーツ用品、伝統的工芸品など、われわれの日常生活に密接に関連する製品について業種横断的な政策を推進している生活製品課。なかでも新型コロナウイルスの感染拡大を契機に転換期を迎えた繊維産業の現状と課題から、SDGs 採択以降、官民による取り組みが進むサステナビリティへの取り組みの状況について、そして「新たな日常」に対応する生活製品関連産業の今後の展望について経済産業省生活製品課の永澤課長に話を聞いた。


経済産業省製造産業局
生活製品課長
永澤 剛氏


生活製品関連産業の現状と課題

――繊維、アパレル、服飾品、住宅・建材・住宅設備、家具・インテリア、生活・スポーツ用品、伝統工芸品など、日常生活に密接に関連する生活製品産業。改めて本産業の現状、そして抱える課題についてお聞かせください。

永澤 生活製品課では、繊維・アパレル、皮革、日用品、住宅設備・建材、伝統的工芸品などライフスタイル全般に関わる非常に幅の広い産業を担当してい
ます。まず、昨年を振り返ると、新型コロナウイルス感染症(以下:新型コロナ)に対するワクチン接種が進んだことで経済活動の回復はみられたものの、緊急事態宣言の継続などもあって、引き続き新型コロナの影響が残る一年だったといえます。特にGW前後には百貨店の営業時間短縮や外出自粛があり、インバウンドの減少もあって、アパレルをはじめとする生活製品課の担当する多くの業種において売り上げが影響を受けています。生産面においては、ベトナムをはじめとする東南アジアのロックダウンによるサプライチェーンの混乱により、給湯器などの安定供給に支障をきたしましたし、ミャンマーで発生したクーデターの影響で、進出していた日本の縫製業者なども影響を受けています。

 これらは短期的な影響ですが、中長期的にみると生活製品産業は90年代以降、生産拠点をアジアなどの海外に移転させてきました。しかし、繊維や住宅設備・建材、日用品分野においてわが国は引き続き高い技術力と品質を誇っており、こうした点は国内外からも高く評価されています。また、最近の消費者や生活者の動向に注目すると、生産者と直接つながりたいといった動きもみられるなど、単なる製品を求めるというよりも、製作者やブランドのもつ背景や世界観に共感するような消費行動が確認できますので、この点も生活製品産業全体において重要な動きになると思っています。中長期的には、少子高齢化の結果、国内市場が大きく成長する余地はないようにみえますが、消費者の動向をとらえつつ、新たなニーズに対応し、ものづくりの力を活用することで新しい産業、市場もみえてくるのではないかと考えています。

 そのため生活製品課としては、

(1) 国内産地における事業所や人材の減少、サプライチェーン・リスクへの対応など、生産体制の環境整備
(2) 消費者に直接販売する取り組みなどやサステナビリティ、デジタル化への対応など、新しい市場ニーズへの対応
(3)拡大する世界市場を獲得するための海外展開や新しい製品を作り出す技術開発の促進など、新たな市場獲得への体制整備

――といった課題に取り組んでいますし、そのためにもさまざまな企業との意見交換や現場訪問を通じて、事業者の声を丁寧に聞きながら、政策の立案・実施をしていきたいと考えています。

繊維産業におけるサステナビリティと2030年に向けた方向性

――SNSを中心としたソーシャルメディアの展開が新しい動きを生んでいると。また、それ以外にも繊維分野においては2021年2月に「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」が設置されました。検討会ではどういった議論がなされ、またどういった取りまとめが示されたのでしょうか。

永澤 現在、日本の繊維産業は大きな転換期を迎えています。それは新型コロナの感染拡大に伴い、アパレルなどの売り上げが大きく減少するとともに、「新しい日常」を踏まえた消費者のニーズが変化していることに起因しますが、新しい時代に向けて、今後の繊維産業を展望した際に重要になってくるのがサステナビリティになります。

 サステナビリティについては、2015年のSDGs 採択以降、国内外においても官民の取り組みは活発化しています。当然、繊維産業においてもサステナビリティの取り組みは進んでいるものの、産業の川上、川中から川下まで多くの企業がわっていることもあってサプライチェーンの管理などが十分になされているとは言い難い状況にあります。

 繊維産業は関係する企業が多いだけではなく、その最終製品である衣料品は消費者が日々身に着けてるものです。さらにサプライチェーンがグローバルにつながっていることを踏まえると、サステナビリティの取り組みは繊維産業においてこそ始めるべきだと考え、21年2月に設置したのが「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」になります。

 検討会では、①限りある資源を有効活用するため、環境循環の取り組みを進める「環境配慮」、②サプライチェーン上での労働環境や使用する素材などに関して、責任ある管理を進める「責任あるサプライチェーン管理」、③社会的・文化的な性差によって差が生じない環境の整備を進める「ジェンダー平等」、④適量生産・適量供給に向けた取り組みを進める「供給構造」、⑤サステナビリティに係る取り組みを進めるため、デジタル技術の活用を進める「デジタル化の促進」――について議論がなされ、21年7月には報告書が取りまとめられましたので、今後、提言内容を順次実施していくつもりです。

 具体的な動きを紹介すると、①の環境配慮では、「環境配慮ガイドライン」を策定することになっていますが、策定に際しては業界団体だけでなく、経済産業省も参画し、官民それぞれの立場から議論を進めていきたいと考えています。また②の責任あるサプライチェーン管理では、検討会の報告を踏まえ、21年11月に日本繊維産業連盟とILO(国際労働機関)との間で「繊維産業の責任ある企業行動の促進に向けた協力のための覚書(MOU)」が署名され、現在ガイドライン策定に向けた検討が進められています。そして③ジェンダー平等については、繊維産業は他の産業と比較して女性従業員の割合は多いものの、企業の経営層や幹部になる人は少ないといった状況にあります。繊維産業は女性向けの消費割合の多い産業でもありますので、ジェンダー平等についてはきちんと実施していくとして、幾つかの業界団体と実施に向けた具体的な議論を進めているところです。