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【末松広行・トップの決断】 アルビオン・小林章一氏

品質と希少性のベストミックスで「世界一の高級化粧品メーカー」を目指す

こばやし しょういち/1963年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。年間約200万本のロングセラー化粧水を売る高級化粧品会社『アルビオン』代表取締役社長。創業以来“肌実感第一のものづくり”そして“お客様最優先の接客”を一貫している。秋田県藤里町に自社農場を保有する白神研究所をはじめ、沖縄、スリランカなどにも研究拠点を持ち、化粧品業界においても唯一無二の存在。“感動プロデューサー”としてTOKYO FMに番組を持つパーソナリティであるほか、東京農業大学客員教授も務める多彩な経営者。
こばやし しょういち/1963年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。年間約200万本のロングセラー化粧水を売る高級化粧品会社『アルビオン』代表取締役社長。創業以来“肌実感第一のものづくり”そして“お客様最優先の接客”を一貫している。秋田県藤里町に自社農場を保有する白神研究所をはじめ、沖縄、スリランカなどにも研究拠点を持ち、化粧品業界においても唯一無二の存在。“感動プロデューサー”としてTOKYO FMに番組を持つパーソナリティであるほか、東京農業大学客員教授も務める多彩な経営者。

 高級化粧品の老舗ブランドメーカー アルビオンは、徹底した対面販売戦略故にコロナ禍では大きな影響を被った。が、小林社長はあえて動じることなくアルビオンらしさを貫徹し、早くも回復基調となりつつある。希少性を追求するべく、品目数、店舗数とも絞り込むという独自路線を追求しながら、持続的かつ強固な支持を得る同社、その背景にある商品開発への熱意や経営理念などを語ってもらった。

株式会社アルビオン 代表取締役社長
小林 章一氏


「高級化粧品」は創業当初から

末松 アルビオンさんは高級化粧品メーカーとして知られていますが、簡単に御社の沿革と、高級化粧品を掲げた理念などについて教えてください。

小林 弊社は、「日本で唯一の高級化粧品メーカー」として、1956年3月に創業しました。まだ世の中に「高級化粧品」という概念が無かった頃のこと、当初から創業者が「世界一の高級化粧品メーカーになる」という夢を掲げ、2006年に私が社長に就任して以後も、現在まで一貫して高級化粧品に特化してきました。一般的に日本の化粧品メーカーは、高級品からマス・マーケット対象商品まですべて手掛ける企業が多い中、弊社は高級品しか取り扱っておりません。かつ、スキンケアやベースメイクなど、ベーシックな商品が売り上げの80%以上を占めています。時間をかけて錬磨したものづくりと、美容部員によるお客さまへの丁寧な接客を通じて商品の品質をその場で実感してもらう、これを販売戦略の基本としています。

末松 小林社長がそのような戦略を徹底されている背景にはどのようなお考えが?

小林 今般のコロナ禍だけでなく、遡っては2011年の東日本大震災のように、想像を超えた災厄が発生するリスクが常にある以上、今後も連続するであろう想定外の事態に耐えうる強靭な企業づくり、これが私の経営理念の原点なのです。

 その具現化は多々ありますが、〝売り上げ〟に対する捉え方はその最たる例だと言えるでしょう。通常、化粧品メーカーにおける〝売り上げ〟とは、店舗に出荷した段階での品数×価格で計算するのですが、これでは実際に店頭でどれだけ商品が売れたのか実態を把握できません。私としては、出荷額と店頭販売額とを極力近づけて実際にどれくらい売り上げているのかその中身を把握し、それをもとに会社の正確な体力を測定したいと考えています。

 と同時に、販売している店舗で強くなる、つまり一流のお店さまの中でアルビオン商品が常時売れ行きの上位を占めるようになることが、強靭化につながると考えています。現在、弊社商品を取り扱う百貨店が全国に57店あり、その店舗のほとんどが、50社以上の化粧品ブランドを並べているのですが、弊社商品が売り上げのベスト5に位置している百貨店が51店にのぼります。

 このように、創業以来の〝圧倒的な存在の化粧品メーカーになる〟という目標は目下、継続的に実現しています。

 また、市井の化粧品専門店が全国に約6000店あり、そのうち弊社商品を扱う店舗は現在約1300店、これを将来的には900店ほどに絞っていこうと考えています。

品目を絞り店舗を集約した背景

末松 店舗を絞っていくという発想には驚きます。各店舗において品目数を増やすことなく、むしろアイテムを絞り、さらには取り扱う店舗数も増やすのはなく、逆に減らしていくとのこと。通常のビジネス展開とはほぼ真逆の販売戦略のようにも思われますが、そのビジョンと効果はいかがでしょう。

小林 品目数に関しては冒頭で申し上げた高級化粧品の追求、これは高品質であると同時に商品の希少性も体現しています。品目数の削減はその体現の一つです。削減する前に、社内で商品のコンセプトについて確認したところ、当時は年齢ごとに商品を使い分けていく設定となっていました。しかしそれはおかしい。お客さまに対し、今年30歳になったからその年齢向けの商品へと販売する側が切り替えるのではなく、潤いやエイジング対策など、お客さまが求める用途に応じた商品コンセプトを追求すべきだと思い、各年齢層別に分かれていたシリーズを、テーマ別のニーズ対応型へと集約していったのです。各商品の特色が明確化することで、お客さまは自分に必要なアイテムがどれなのか、非常に選びやすくなりました。

 また、品目を増やす代わりに既存商品を定期的にパワーアップリニューアルさせています。既存のお客さまのニーズを維持しつつ、その機に新規のお客さまの開拓も図っています。

末松 品目数の削減に伴い、製造工程を簡素化するなどの合理化も進めて行かれたのでしょうか?

小林 いえ、品数は減らしても開発に係る研究者や工程などは維持・存続しています。時間をかけるイコール高品質とは限りませんが、従来の試作回数にこだわらず、納得いく商品が完成するまで研究を重ねるよう指示しています。多い時には試作が100回以上に及ぶこともあるほどです。結果として、発売延期のお知らせを頻発しています(笑)。と同時に、失敗を共有する文化が無いと高級品は作れません。高級品の理想は、これまで世に無かったものを形にして提供することですから。

末松 店舗を減らしていくことも希少性追求の表れでしょうか。

小林 そうですね、近隣のどのような業態の店舗でも手に入るのではなく、わざわざ足を運んで販売員から説明等のサービス提供を受けた上で購入していただく、そういう業態の店舗に売り場を絞り込んでいます。ベーシックな商品を主体にしているため、お客さまにとって手元の品が無くなれば、店舗が近隣に無くても、また定期的に販売店へお買い求めに来ていただけます。われわれは初めてアルビオン商品を購入いただいたお客さまを「新規客」、2回目のお客さまを「再来店客」、3回目以後のお客さまを「会員」とお呼びし、この会員さまをいかに増やすか、そしていかに一定頻度で来店していただくかに注力しています。

 確かに、国内化粧品業界で販売店舗を削減するという先例はそれまで無かったのですが、私がこの業界に入った当時、強力な外資系メーカーが、多数あった自社専門店をある時一斉に閉鎖して百貨店等に店舗を絞ったことがありました。その結果、彼らの商品の売り上げがむしろ大幅に増加したのです。私はそれを見て、なるほど集約化により販売店における売り上げの上位を確保できれば同店でのポジションも強くなる、と得心しました。つまり、銀座で複数の百貨店に出店していたのを1店に絞り、同店で1位になることを目指していけば当然、百貨店内部でのポジションも変わるし、百貨店にとってもアルビオンが差別化ブランドになります。お客さまはアルビオンを買うために他の百貨店には行かなくなるわけですから。

 そう考えて、1999年以後、今日まで店舗の集約化に努める一方、反比例して総合売り上げは上昇基調を描いています。

(資料:アルビオン)
(資料:アルビオン)

末松 しかし、実際に絞り込み対象の百貨店から既存の売り場を引き揚げるのは、容易なことではなかったのでは。

小林 ご指摘の通りで、これは社長の私自ら百貨店や専門店に対し頭を下げて回りました。これはトップが行動して主旨をお伝えして理解を得なければならない案件です。特に専門店については返品が返ってくることも勘案して、売り上げ目標と同時に解約店目標も立てて一気呵成に減らしていきました。