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経済産業省生活製品関連産業政策最前線

――さらに同年11月には「2030年に向けた繊維産業の方向性」をさぐる審議会が設置されています。審議も前半の段階ではありますが、本審議会ではどういったことが議論されているのでしょうか。

永澤 繊維産業政策については、以前は5年ごとに繊維ビジョンを策定し、それを官民で共有しながら政策を進めていました。今般、新型コロナという契機、そして消費者のニーズが変わってきたことを受けて、改めて産業全体を見直していく必要があるのではないか、繊維産業政策の新機軸を示す必要があるのではないかと考え、産業構造審議会に「繊維産業小委員会」を設置し、2030年に向けた繊維産業の方向性についての検討を進めているところです。

 現在、進めている具体的な検討内容には、①生産体制の環境整備(国内産地の在り方に関する検討/人材確保・人材育成の環境整備/サプライチェーン・リスクへの応)、②新しい市場ニーズへの対応(新しい販売方法・市場への対応/サステナビリティへの対応/デジタル化への対応)、③新たな市場獲得への体制整備(海外展開の加速/技術開発の促進)――があり、今春には内容の取りまとめを実施したいと思っています。

――繊維産業のもつ可能性、あるいは期待の高さがうかがえます。

永澤 そうですね。国内におけるアパレル市場はバブル期の15兆円をピークに現在は10兆円ほど、一昨年は新型コロナの影響もあって8兆円台にまで落ち込みました。昨年は若干回復しましたが以前の状況までの回復はみせていません。つまり、どれほど頑張っても国内には10兆円規模の市場しかないわけです。しかし、アジアを中心に海外にはまだまだ伸びる可能性のある市場もありますので、日本のアパレルも海外に目を向けていくべきだと思っています。

 もちろん、日本と同じものをつくっても売れるとは限りませんので、きちんと現地のニーズを調査し、ニーズに即した商品を提供していく必要はありますが、世界に誇る日本の高い技術力と品質であれば、新しい市場の開拓も不可能ではないと思っています。

カーボンニュートラル実現に向けた生活製品関連産業の取り組み

――環境対策やカーボンニュートラルの実現といった取り組みはさまざまな産業にも波及しています。繊維産業以外の分野ではどういった取り組みが進められているのでしょうか。

永澤 2050年カーボンニュートラルの実現といった目標が示されたことを踏まえ、住宅・建材・住宅設備分野ではエコガラスや断熱材を導入して住宅の断熱性能を上げるなどの省エネ性能の向上を図っています。それ以外にも、わが国のCO2排出量の2割弱を占める運輸部門においても一層の省エネやそのための輸送手段の合理化が求められていることもあり、物流の効率化を徹底していくことが重要になります。

 特に建材資料分野の物流については、荷待ちなどによるトラックドライバーの長時間労働の改善を図るために国土交通省、厚生労働省とともに2020年5月に「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン 建設資材物流編」を策定しています。生活製品課で所管する建材・住宅設備業界では本ガイドラインも踏まえて物流課題の改善に取り組んでいますが、商慣習の見直しやICT活用によるデータ情報の共通化などサプライチェーン全体で検討を進めていくべき課題が多く残っているのが実情です。くわえて業界の特色として取り扱う製品が多品種であり、また荷姿や重量もさまざま、そして物流レートも複雑化しているなど多くの課題を抱えています。

 そのため建材・住宅設備のサプライチェーンにおける物流課題を解決し、物流の効率化を図っていくために、建材・住宅設備の業界だけではなく、関係業界とも連携して2030年までのアクションプランを策定すべく、21年12月にワーキンググループ(建材・住宅設備ワーキンググループ)による検討を開始しました。本アクションプランについては今年度中に取りまとめを行い、来年度以降はフォローアップをしていく予定になっています。

 また生活製品課では伝統的工芸品についても扱っていますが、本分野についてはインバウンドがなくなったことが非常に大きな影響を与えています。しかし、こうした状況を乗り切るために中小企業庁の事業再構築補助金などを活用して、EC販売を始めるなどの転換を進めている産地も出てきています。まだ売り上げの回復までは至っていませんが、新型コロナに負けずに新しい可能性を模索する動きも出始めていますので、われわれも可能な限りの支援をしていきたいと思っています。

――新しい時代に向けて産業構造そのものが大きく変わろうとしています。最後に生活製品産業の発展などに向けた想い、また今後の展望や方向性についてお聞かせください。

永澤 国内外においては、DXなどのデジタル化の動きやサステナビリティの動きが産業構造に大きな影響をもたらしていますが、こうした動きに繊維やアパレルのみならず、住宅設備や日用品分野もしっかりと、そして遅滞なく対応していくことが重要になります。また国内における人口減少・高齢化の加速や人生100年時代の到来は、多くの産業のあり方に影響を与えることが予想されます。さらにインターネットやスマートフォンなどの普及によるオンライン消費の拡大、SNSを通じた双方向の情報のやり取りは新たなビジネスをつくり出す要因にもなっています。

 こうした環境の変化に生活製品産業も対応していく必要がありますし、デジタル技術と連携した健康市場などへの参入や異業種との商品・サービス開発における連携、イミ消費の取り込みなどは、今後の事業展開を進めていく上で重要な要素になると考えています。単なる物売りから、ライフスタイルを提案していくようなビジネスに変化している、そういう点を踏まえて政策を考えていきたいと思っています。

――本日はありがとうございました。
                                                                (月刊『時評』2022年2月号掲載)