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GXを見据えた資源外交の指針/資源エネルギー庁 定光裕樹氏

さだみつ ゆうき/昭和44年生まれ、大阪府出身。東京大学法学部卒業。平成4年通産省入省、27年経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部石油・天然ガス課長、29年同政策課長、30年エネルギー・金属鉱物資源機構理事、令和3年同特命参与、経済産業省中小企業庁長官官房総務課長、3年7月より現職。
さだみつ ゆうき/昭和44年生まれ、大阪府出身。東京大学法学部卒業。平成4年通産省入省、27年経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部石油・天然ガス課長、29年同政策課長、30年エネルギー・金属鉱物資源機構理事、令和3年同特命参与、経済産業省中小企業庁長官官房総務課長、3年7月より現職。

世界的な脱炭素、カーボンニュートラルの潮流の中、従来の化石原料由来の資源・燃料の供給に大きな変化が生じている。同時に、資源保有国が国有化等の資源ナショナリズムを強める傾向にあるなど、わが国の資源外交はこれまで以上に困難な局面に対峙していると言えよう。今後、より効果的な対策を講じていくにはどのような戦略が求められるのか、定光部長に現状分析を踏まえた方向性について語ってもらった。


「指針」取りまとめの背景とは

 2001年の省庁再編によって旧・通商産業省から現在の経済産業省になるのと同時に、かつての石油部長はこの資源・燃料部長へと移行しました。名称は変更になったものの、基本的には化石燃料の安定供給を主たる任務としてその後も長らく続いてきたのですが、2020年に菅義偉総理(当時)が2050年カーボンニュートラルの宣言を発して以後、化石燃料の脱炭素化が大きな課題となり今日に至っています。相対的に、化石燃料に関する仕事が急速に減少し、最近では私の業務時間の半分以上が、日本で非化石燃料をいかに確保するか、その仕組みをどう構築していくか、という命題が占めるようになりました。

 加えて近年では、化石・非化石ともにいわゆるエネルギー用の資源だけでなく、レアメタル、レアアース等の鉱物資源に関する海外交渉の仕事なども急速に増えてきています。実際のところ、私の出張の半分以上はレアメタル関係の業務と言っても過言ではありません。このように、GXという目標が掲げられた今、この仕事も大きく様変わりしております。

 そういう意味では資源外交も、以前は産油国との関係をどうするべきかが主体となっていましたが、非化石や鉱物の比重が高まるにつれ、扱う資源の多様化、対象国や関連技術の広がり等により、なかなか部全体としても対応が難しいと感じることがありました。そこで改めて一度状況を整理し、今後に備えるという観点で2023年6月に取りまとめたのが、この「GXを見据えた資源外交の指針」です

 例えば技術に関しても、CO2の排出抑制にとどまらず、回収・貯留するCCS(Carbondioxide Capture and Storage)、さらにそれを活用するCCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)という技術が具体化しつつあります。また、新燃料と呼ばれる水素・アンモニア、バイオ、合成燃料(e-fuel)などのマーケットをほぼゼロの状態から立ち上げていかねばならず、付随して国際ルール作りも欠かせません。

 また国家間の産業政策をめぐる競争が激化しています。欧州がグリーンテックの分野に急速にシフトしていく一方、米国バイデン政権がインフレ削減法を打ち出して低炭素技術に対する極めて大胆な税額控除等を図るなど、欧米ともにGXに向けて政府が大胆な支援策を打ち出していることから、日本としても強力な産業政策が求められています。また、ESG(社会的責任投資)への対応も必要です。

 他方で、資源国におけるナショナリズムの強化、つまり単に資源を輸出するだけでなく自国内で高付加価値な産業を形成したいという要請が高まりを見せています。また資源燃料の分野でも、今般の米中対立の影響も鑑みていかねばなりません。

 総括すると、これまでの資源外交は産業界のニーズを踏まえて国がバックアップしていくという構図でしたが、今後はより俯瞰的な観点で国・地域ごとに状況を把し、官民連携による輻輳的な取り組みが求められると思います。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

需要が増大する非化石、鉱物

 GXの流れの中で、従前に比べ資源外交の対象、すなわち付き合うべき国も変わってきました。例えば、太陽光と風力の組み合わせによって水素をどの国・地域が安く作れるのかが注目されています。つまり、そうした再生可能エネルギー創出の条件に恵まれた場所はどこなのか、ということになります。

 この点、中東や豪、米国など伝統的な化石燃料の資源国は再生可能エネルギーの地理的条件にも恵まれているため、化石と非化石を併せた外交を展開する必要があります。また、世界最大の銅の産出国であるチリは、風況、太陽光の環境にも恵まれ、新たな再エネ創出国としてのポテンシャルを秘めています。また、インド、中国のような消費国の中には再エネの条件も整っている国があるため、将来的にはエネルギー自給率を下げて新燃料の大消費国、さらには輸出国へと変貌する可能性があります。

 各資源に関し、今後の需要を見通してみましょう。前述の通り、将来的に化石燃料の需要が急速に落ち込む一方、非化石燃料が増大していくと見込まれます。ことに輸送分野ではバイオ燃料が主体となり、なかなか内燃機関がバッテリーに置き換わるのは難しいとされるトラックを中心に、2030年までに需要・供給とも現状より倍増する見込みです。さらには航空機や船舶燃料の脱炭素化ニーズが高まり、トラック同様バッテリーシフトではなくバイオ燃料の需要が急進すると目されています。そのバイオ燃料の原料となるトウモロコシやサトウキビは食料供給と競合する懸念があるため、競合しない他の動植物由来のバイオ燃料開発が伸びていくと指摘されています。

 とはいえ食料競合という制約がある以上、大量生産を図るには、水素とCO2を合成して液体燃料化したe-fuel への注目度が高くなります。航空・船舶、発電等の分野で、将来的に活用が期待されています。ただ、現状ではコストが化石燃料の5~7倍とされているため、今後一定の期間をかけて研究開発し、コストダウンを図っていくこととなります。

 続いて、鉱物資源に関する現状について。バッテリーの需要増に伴いレアメタルやレアアース等の鉱物資源需要が急伸すると予想されています。例えば今後EV車が世界に広く普及すると仮定した場合、2050年段階ではリチウムが現状の約10倍必要になるとの試算もあり、他の鉱物資源も含めて需給ギャップは拡大の一途をたどる可能性が高くなっています。

 一方、GX技術を導入するには相当のリードタイムがかかることも認識しておく必要があります。プロトタイプから商業化まで20年以上要すると言われ、さらに大規模なプロセス技術となると小規模なモジュール技術よりなお一層、時間がかかります。例えば米国では、先ず現段階においてフォークリフトなどに水素を導入することから始まり、やがてe-fuel を乗用車やトラックに活用していくというロードマップを描いているのですが、それでもロングタームを想定しているのが現実です。また技術発展の時間軸に応じ、獲得すべき資源エネルギーも変遷していくことでしょう。このような点を勘案しながら、さまざまな資源・燃料の戦略を描いていくことが肝要だと思われます。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

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