
2026/05/08
昨秋の高市政権発足後、わが国の経済・社会の方向性は大きく転換しようとしている。しかし、政権が掲げる“強い経済”を基盤から支えるためにも地域経済の活性化は不可欠であり、“足腰”となる地方経済産業局の活動はますます重みを増している。そのためには関係機関とともに、有効な施策の数々をまず、経営者に着実に発信する必要がある。内外情勢の変化が激しい中、関東経産局管内の動向を岩田泰局長に展望してもらった。
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不安からコストへ、対処の道筋
――岩田局長は本年2月にご就任され、まだ座も落ち着かぬ状況とは思われますが、関東経産局の概況についてまずはご所感などいかがでしょう。
岩田 まだ管内をくまなく回ったわけではありませんが、各種数字の動向に対する印象としては、一部に弱い動きはみられるものの、全体としては緩やかに改善していると捉えています。もちろん、昨年来の米トランプ政権による関税への対応、足下では中東情勢の動乱など不確定要素が多々あり、将来に向けては引き続き留意する必要はありますが、数字としては改善基調をたどっているようです。
――25年のトランプ政権発足後、変転する関税への対応は産業界全体が注視するところでした。
岩田 確かに、企業にとっては、トランプ大統領就任当初は今後どのような展開になるのか読み難い、という点で不安が高まる面があったのは確かだと思います。ですがその後、日米交渉が妥結したことにより、いわば不安はコストに転じました。2月の米国連邦裁判所による相互関税などへの違憲判決とその後の新たな関税の発動など、依然として不確定要素はありながら、対処の仕方を模索する五里霧中の状態を脱したと言えるかもしれません。
ただ、関税問題が企業活動に与える影響は、今後もっと企業の直接的な声を聴く必要があります。
支援活動の認知度向上が第一
――他方、内なる問題としては企業の後継者難が依然として難題のようです。
岩田 この点は、高市総理も所信表明演説で事業承継について触れている通り、重要なテーマです。着任後、何カ所か訪問した支援機関や事業者より、異口同音に人手不足と後継者難に悩む声が寄せられました。
中小企業庁および当局では、「事業承継・引継ぎ支援センター」を各都県に設置し、事業承継・M&Aに対する経営者からの相談や計画づくり等についてのサポートを行っています。
2月末に、群馬県で開催された日本商工会議所青年部の全国大会に出席し、その帰路に県の産業支援機関に立ち寄って情報交換をしてきました。総じて経営者の方々は事業承継に向けて頑張っておられるのですが、「事業承継・引継ぎ支援センター」がさまざまな支援活動を行っていることへの認知度をさらに高めることが重要と感じています。
――つまり、事業承継を必要とする経営者に対し、行政が支援しているという情報があまねく届いているわけではないと。
岩田 はい、継続的かつ多様な広報活動により、多彩な支援メニューがあることを一人でも多くの経営者の方に知ってもらえると何よりですね。知って活用してもらえれば、自身のビジネス活動に必ずプラスになる、と産業支援機関の方々と話して実感しました。
私は局長就任時にも広報の重要性について申し上げたのですが、まずは政策を知っていただかないと数々の支援策も使われませんし、それでは政策の効果が発揮できません。従って、まずは認知度の向上を目指し、さまざまな取り組みを講じていきたいと考えています。
行政サイドからの支援制度の説明は、ややもするとまさに行政からの目線に立った、メニュー一覧の掲示にとどまる場合が少なくありません。しかし企業サイドからは、補助金や税額控除など数あるメニューの中で、どれが実際に使い勝手がよく、どれが自社の役に立ちそうなのか、具体的には判然としない面があるかもしれません。そこでわれわれも、月例のプレスブリーフィングをする際、なるべく企業の方々にもご登壇いただき、こういう制度を使ってこのようなビジネス展開ができました、という実際に役立った好事例を、企業の声として発信してもらうようにしています。そうすると、支援を求めている他の企業にとっても分かりやすいと思いますし、メディアの皆さまにとっても報道しやすいのではないかと考えております。
省力化が新たなチャレンジのベースに
――人手不足を補うため、従前より中小企業におけるDX、そして今般はAI利活用の推進が求められています。
岩田 行政・企業を問わず、これまで人手に頼っていた検索や要約などの業務を、有償無償を含めてAIの機能に置き換える効率化の認識は、だいぶ進んでいると認識しています。
重要なのは、これらAIを活用することにより、経営リソースをどこに重点化するか変わってくる、という点です。それまで人手を割いていた業務が省力化できたことで、他の業務や部署に人員など経営資源をより投入することが可能となり、場合によっては新事業開拓や投資へのチャレンジができるわけです。
――人手の補完より、新規ビジネス開拓という側面が重要であるということですね。
岩田 そうですね、AIの活用度合いによっては企業経営そのものが大きく変わる余地があると思います。であれば効率化にとどまらず、企業がAIを活用できる範囲はまだまだたくさんあると考えられますので、私自身も今後、企業の声を聴いて、地域経済の発展に貢献するような施策をぜひ推進していきたいですね。
付言すると、人手不足という状況は、人余りと性質が異なります。人余りは失業率の増加に直結し、社会全体にとって大きな課題となります。それに対し人手不足は、基本的には企業経営の問題ですので、企業にとっては人手をかけずに同じパフォーマンスを達成できるのであれば、それは逆にプラスとなります。これまで人が足りなかったためにできなかったことが、AIによって人手をかけなくてもできるようになったのならば、それはまさに企業の生産効率が向上したということになります。生産効率を上げることで賃上げの原資を得る、それを社員に配分するという成長のサイクルを確立することが必要です。
AIの導入によって、その実現が可能となる余地が大きいのではないか、人余りの場合は人員削減のことを考えがちですが、人手不足の今だからこそ、積極的にシフトチェンジする好機ではないかと、私たちは捉えています。