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医薬品産業の振興・ 活性化に向けて                      厚生労働省医薬産業振興・医療情報審議官 森 真弘氏

講じるべき政策パッケージ

 本年1月、高市総理が掲げた戦略17分野の一つに創薬・先端医療と同時に、合成生物学・バイオが組み込まれ、ここでもバイオ医薬品の製造拠点の整備に向け、産学交えて議論してきました。6月中旬段階で、以下の講じるべき政策パッケージが列挙されています。
 ① 実用化人材・インフラの確保
  創薬人材はメーカー内部以外に乏しいため、シーズの目利きや審査する上で薬事の知識などを有した人材を幅広く流動化させる必要があります。
 ② 資金基盤・データ利用基盤の確保
  革新的新薬のイノベーションの適正な評価、海外からの投資を呼び込めるよう実用化の支援、さらにリスクマネーを供給するために政府系機関等の
  機能強化を図ります。
 ③ 基礎研究力・治験体制のさらなる強化
  あるデータによると、日本の治験は実際に可能なキャパの半分程度にとどまり、キャパを超えて治験に取り組む米国・中国などとは対照的です。
  従って国内でより高度な治験ができるような環境を整備すべきです。少なくとも現状の治験数の倍増を目指します。
 ④ 国際展開
  海外に医療機器等を輸出するだけではなく、治療方法や健康管理などノウハウを含めて国際展開することが有望ではないかと思われます。

 また、これらパッケージの実現を図る上で、AI・データ利活用による研究開発プロセスの高度化・効率化も欠かせません。 

 さらに着目すべきが、感染症危機対応医薬品です。国内で一定の感染症危機対応医薬品を備蓄しておかなければ、いざ感染症が発生した場合に必要な医薬品が供給できない事態も想定されますので、事前の買い上げや備蓄が必要ですし、また独自の感染症危機対応医薬品の研究開発と、それを可能とする製造拠点の整備も求められます。

 国内製造拠点と言えば、バイオ医薬品も同様の対応が不可欠です。ワクチンを自分たちでつくれなければ、感染症拡大時に国民を守ることができません。もちろん拠点を整備するだけではビジネスにつながらないので、少なくともマーケットの信頼を得るまでの研究草創期が必要で、それが軌道に乗るまで支援することも大切です。

 また、情報基盤の整備について。これからの創薬を考えると、やはり必要なデータは全部デジタル化されていなければなりません。海外のメーカーはAIを駆使して化学物質の計算などをしていますので、そうした観点から医療DXを進めていくことが極めて重要です。その一環として2030年までに、電子カルテをすべての医療機関に設置していただくこととなっています。そうなると保険診療のレセプトや介護保険、難病治療など各種データベースが、電子カルテと一気につなげることが可能となります。こうした情報をさらに創薬へ応用することで、より良質な薬を早く作ることができると想定しています。

 そしてAIを創薬に、より積極的に使っていく必要があります。現在AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)にて研究を進めていますが、遠からずAIによる創薬を実装化していく時代が来ると考えています。まずは各方面共有の基盤をつくり、スタートアップもAI創薬を活用できるような環境を整備しつつ、将来的にはAIによる審査も実現を目指すべきであり、米国は既にその研究に着手しています。

後発医薬品の安定供給に向けて

 ここから、ジェネリックこと後発医薬品の安定供給についてお話したいと思います。数年前、解熱剤等の医薬品不足が起こりましたが、現在のところ医薬品全体の供給状況として、通常出荷が86%ですが、逆に言えばまだ14%が通常の出荷状態とは言えず、この中には7%の供給停止、自社事情の限定出荷、他社事情の限定出荷もそれぞれ含まれます。自社事情とは、工場の生産ライン上の問題等により必要な量をつくれない、他社が何らかの理由で薬をつくれず自社ではその分の追加需要に応えきれない、等の状況を指しています。

 通常出荷でない医薬品が増えた理由として、ジェネリックはそもそも少量多品目生産で同じ品目を2ケタの企業がつくっている場合もあるなど、非効率な構造的課題があります。そこへメーカーの薬機法違反に基づく出荷停止等による供給量の低下、コロナ禍による需要の増加が重なり、大規模な供給不安に発展しました。

 そこで、当面の対応としてはまず、メーカー主要各社に、他の医薬品の生産ラインからの緊急融通やメーカー在庫の放出等、増産に向けたあらゆる手立てを講じてもらいました。また病院や薬局においては、今般のナフサの一件と同様、供給不安によるジェネリックの買い込みを控えるよう要請しています。むしろ、こうした買い込みが供給不安を引き起こす一因となります。さらに卸売業者に対しては、安定供給に関する相談窓口を設置していただきました。

 一方、将来に向けて少量多品目という生産形態を根本的に見直すべきだとして、製造管理・品質管理体制の確保、安定供給能力の確保、持続可能な産業構造の実現を目指します。5年程度の集中改革期間を設け、徹底した自主点検の実施、薬事監視の向上、品目の統合、企業間の連携・協力の推進など実施できるものから迅速に着手しつつ、供給不安の早期の解消と再発の防止を進めている過程にあります。

 また、25年に後発医薬品製造基盤整備基金を創設し、品目統合や事業再編等の計画を認定し、生産性向上に向けた設備投資や事業再編に係る経費を支援しています。実際にこの基金を使って、品目統合の希望が多数寄せられているところです。

 さらには後発医薬品メーカーを三段階に区分し、より安定供給している企業等は上位に区分して多くの薬価を付けるなど、産業構造変換を目指す企業を評価する仕組みの導入を考えており、厚生労働省からこの夏以後、さらに品目統合を進められる提案をしたいと検討しています。

 そのほか25年に、医療用医薬品の安定供給体制を強化する方向で薬機法を改正しました。同法において、供給体制管理責任者の設置、安定供給に向けた手順書の作成等を企業にお願いしつつ、いざ供給不安発生の兆候が見えた段階で、供給状況報告の届け出、安定供給への協力要請など厚生労働大臣による供給不安の迅速な把握、そして安定供給確保措置の指示を発することを定めています。特に一部の抗菌薬については供給元が特定国に限定されている現状を鑑み、備蓄に向けた生産等へ支援を行うべく、備蓄体制整備事業として令和8年度当初予算で9・4億円を付けました。

(資料:厚生労働省)
(資料:厚生労働省)

再生医療推進をめぐる緩和と規制

 最後に、再生医療等の推進と安全性確保等に関する法制度について触れておきたいと思います。再生医療とは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)、体制幹細胞などを使い、病気やケガで機能不全になったと組織や臓器を再生させる医療技術です。創薬のための再生医療技術の応用も期待されています。

 2013年に議員立法で再生医療推進法が成立し、その後ほどなく再生医療等安全性確保法と医薬品医療機器等法という二つの法律が成立しました。これにより安全な再生医療を迅速かつ円滑に、かつ多くの製品をより早く提供する、という体制が整備されました。例えば再生医療等安全性確保法にのっとり医療機関が再生医療をやりたいと希望した場合、①計画の作成と認定再生医療等委員会に提出、②同委員会から計画に関する意見聴取、③同委員会から意見と認定、④厚生労働省へ認定された計画の提出、⑤医療機関から患者へ再生医療等の提供、という順序で進むことになります。

 しかし仮に再生医療を行って患者さんが亡くなった場合、厚生労働省が医療機関に出向き、加工した細胞に問題がある場合は特定細胞加工物等の製造施設に対して、治療行為に問題がある場合は医療機関に対して、また認定再生医療等委員会に問題があるようならば、それぞれ改善命令等の措置を講じることとなります。

 再生医療推進法をつくった時は、あまり厳しい規制をかけすぎると再生医療の研究が停滞する、従って研究をより活発化させるべきとの声が多数でしたが、近年では研究ではない自由診療を中心とした事故の多発を鑑み、適正な規制をかけるべきとの声が高まりを見せています。ただ、再生医療そのもののポテンシャルは非常に高く、新しい治療薬が次々と出てくる可能性があります。そのため厚生労働省としては、研究に対しては手厚くサポートし、品質や安全性の確保、実用化に向けた支援をしていくべきだと考えています。

 前述の再生医療等安全性確保法は昨年改正法が施行されたところなのですが、法の適用範囲やリスク分類、研究以外で実施されている再生医療等の提供の妥当性や国民の理解促進、安全性の強化等に関し、さらなる改正が必要との意見が数多く寄せられています。現実として、美容医療で細胞の分泌物(エクソソームを含む)を注入する療法が広く見られますが、このエクソソームは何の効果があるのか、危険なのか安全なのか確認されていません。

 そこで、再生医療等を受けた者のフォローアップ体制、届け出による製造施設における実態把握等について、これから検討会を立ち上げ、議論を行う予定となっています。今後のより良い再生医療の在り方のために、実りある検討を進めていければと思っています。
                                                 (月刊『時評』2026年8月号掲載)