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国土交通省/防災・減災に向けた 砂防政策の取り組み

――ハードとソフト両面による事前防災が重要というわけですね。では、それ以外の取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか。

三上 直接的な防災・減災対 策以外にも、防災・減災に向けた諸外国との交流、働き方改革や砂防人材の確保といった取り組みも進めています。 まず諸外国との交流については、土砂災害対策を共通の課題とする東南アジア、欧州、中南米をはじめとする諸外国との技術交流を行っています。ここ数年はコロナの影響もあって延期やリモートも余儀なくされましたが、昨年は6月に「日本スイス土砂災害リスク管理技術会議」、11月には「日本イタリア土砂災害防止技術会議」を開催して、意見交換をしたり、共通の課題に対して今後も議論を重ねていくことを確認しています。日本の砂防技術は世界的にも高い評価を受けており、各国から高い関心を寄せられています。実際「SABO」は世界にも通用する防災用語ですし、諸外国から研修生を招くJICA主催の研修会なども好評を博しています。


三上  そして、激甚化・頻発化する自然災害への備えとして土砂災害対策が急がれる一方、少子高齢化の進展により災害対策の働き手・担い手が減少しているといった問題もあります。そのため、より一層の生産性向上が求められていますので災害現場におけるDX化は必須と言えます。もともと砂防の現場は山間地の狭隘な部分など、厳しい状況下にあることが多く、個々の現場条件に応じて、コストや時間、労力を総合的に勘案して最適な施工計画を検討していく必要がありました。そのため、砂防の現場で開発され、発展して きた無人化施工技術の積極活用はもとより、調査・測量・設計・施工・維持管理といった建設生産プロセスの段階において適用可能な技術を最大限活用していくことが重要になります。

 さらに各プロセス間を3次元データでつなぐことで生産性の向上や持続的なインフラメンテナンスに役立てるといった手法をはじめ、第5世代通信規格(5G)を活用した技術のさらなる高度化も図っています。また既に完全自動化施工が実験的にスタートし、UAV(無人航空機)を活用した自動巡回施設点検システムも導入されたことで砂防施設の点検は、より安全性に配慮し、効率的に行われるようになっています。さらに監視検査においても3次元測量などを活用したリモート化も進められていますので、これからも受発注者双方にとってより効率的で生産性の高い現場対応を模索していきたいと考えています。


――土砂災害対策は、まちづくりとの連携も重要だと伺っています。その点についてはいかがでしょうか。

三上 そうですね。土砂災害 防止法の施行のきっかけになった1999年11月6日の広島災害では、新興住宅が土石流やがけ崩れに襲われ、甚大な人的被害を被ったことで土砂災害リスクの高い土地への規制が強く求められ、土砂災害特別警戒区域の指定と指定エリアでの開発行為の制限や建築物の構造規制という施策につながりました。また現在は少子高齢化の進展といった新たな問題もあるため、これからの砂防関係施策については、住まい方、そしてまちづくりを改めて再構築する取り組みを防災安全度の向上といった面から支援していくことにも重点が置かれるようになりました。そして土砂災害警戒区域の指定が全国的に進捗したことで、土砂災害リスクが「見える化」しましたので、その点も踏まえ、各方面と連携した施策への取り組みを進めているところです。

 直接的なまちづくり施策との連携としては、2021年度に創設された「まちづくり連携砂防等事業」があります。本事業では住居や基礎的インフラを集約しようとする地域を優先的に保全するために都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画において居住誘導区域として指定された区域を保全する砂防事業などを補助事業として計画的・集中的に 実施し、早期に土砂災害に対する安全度を向上させるとともに、防災に配慮したまちづくりを促すとしています。さらに公共工事以外の取り組みとして、土砂災害警戒区域は宅地建物取引業法で重要事項説明の対象となっていますが、土砂災害特別警戒区域内の住宅については住宅ローン「フラット35S」の金利優遇対象から除外するとして制度の見直しが図られ、住宅移転に関する支援制度も拡充されるなど、土砂災害リスクが著しく高い「災害レッドゾーン」から住宅の退避を進める取り組みは確実に強化されていると考えています。

土砂災害防止月間の取り組み

――毎年6月を「土砂災害防止月間」としています。本年度の取り組みについてお聞かせください。

三上 全国的に本格的な梅雨期に入り、土砂災害も増える6月を「土砂災害防止月間」として、土砂災害に対する備えの強化を目的に、都道府県や市町村とも連携して災害防止に向けたさまざまな運動や活動を行っています。 月間内には「土砂災害防止全国の集い」があり、今年は6月1日から2日にかけて和歌山県田辺市で開催される予定です。

 集いのテーマを「強くしなやかで美しい国土づくりを支える砂 防~大災害からの復興と新たな挑戦~」とし、2011年の紀伊半島大水害から復興と土砂災害の防止に取り組んできた和歌山県において、地域社会の「いのち」と「くらし」を守るための取り組みについて意見交換をするとともに、新型コロナによって都市部から地方部へと人の流れが変化する新時代において「美しい国土づくりを支える砂防」の役割と大切さについて考えることで、今後の災害対策に生かしていくことを目的としています。当日は万全の感染症対策をもって臨みますので、是非、多くの方に参加していただきたいと思っています。



――これから本格的に雨(梅雨)、台風の季節を迎えます。最後に防災や土砂災害対策(砂防政策)の実現に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。

三上 今後の砂防政策の実現に向けた話ではありませんが、今年の3月12日、長崎県島原市において「雲仙・普賢岳直轄砂防事業完成式」が挙行されました。1990年11月の噴火、翌91年以降の火砕流と土石流による被害は地域に多大なる被害をもたらし、93年の雲仙復興工事事務所設置以降、直轄砂防事業は28年間実施、2020年度末をもって雲仙復興事務所は幕を下ろしました。

 私事ですが、初代の雲仙復興工事事務所調査課長として94年から現地で2年間業務にあたりました。火山活動と山麓の地形変化を総合検討し、刻々と変化する警戒区域や避難勧告区域を島原市長などが設定する際の参考データとして提供。応急対策としての除石工事を無人化施工技術も開発しつつ進め、恒久対策としては砂防施設の施工計画を含めた詳細設計から、砂防事業によって付け替えが必要になった道路や鉄道の橋梁設計、それらに関連した地元説明を行ったのを懐かしく感じています。

 それだけに水無川に最初に完成した砂防堰堤「水無川1号砂防堰堤」の天端に関係者が集まって行った記念撮影には感慨深いものがありました。砂防という社会資本は整備に長い年月を要しますが、地域にとって不可欠で未来につながる「安全・安心」をもたらすものです。記念写真には警察、消防、自衛隊などさまざまな団体が写っていますが、現地に事務所を構え、インフラ整備にあたったのは九州地方整備局のみであり、これからも崩落の危険性のある溶岩ドームの監視、水無川の土石流対策を直轄砂防管理として担当していきます。

 また大規模な土砂災害が発生した折に自治体の緊急・応急対応を支援するTEC-FORCE の対応、その後の砂防工事を行う事業執行部隊の対応はいずれも整備局が担当していますが、こうした対応は今流行りの「二刀流」と言えるかもしれません。

 ここ3年間、整備局人員の増員が認められたのは各方面からの支援の賜物ですが、今後は人員の量的確保に加え、質的確保が一層重要になります。組織として、また個人としても対応スキルを向上させるべく、日頃から技術力の研鑽に努めていきたいと思っています。

――本日はありがとうございました。                                  (月刊『時評』2022年6月号掲載)