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脱炭素社会の実現に向けた住宅・建築物政策/国土交通省 今村 敬氏

◆国土交通省住宅・建築物政策最前線

いまむら たかし/愛媛県出身。東京大学工学部卒業、ハーバード大学行政学修士。平成4年建設省入省。19年国連教育科学文化機関(ユネスコ)出向、23年国土交通省住宅局建築指導課企画専門官、27年都市局都市計画課土地利用調整官、28年内閣府地方創生推進事務局企画官(兼)内閣官房産業遺産の世界遺産登録推進室企画官、30年国土交通省住宅局建築指導課昇降機等事故調査室長、令和元年住宅局建築指導課建築物防災対策室長、3年住宅局参事官(建築企画担当)を経て、5年7月より現職。
いまむら たかし/愛媛県出身。東京大学工学部卒業、ハーバード大学行政学修士。平成4年建設省入省。19年国連教育科学文化機関(ユネスコ)出向、23年国土交通省住宅局建築指導課企画専門官、27年都市局都市計画課土地利用調整官、28年内閣府地方創生推進事務局企画官(兼)内閣官房産業遺産の世界遺産登録推進室企画官、30年国土交通省住宅局建築指導課昇降機等事故調査室長、令和元年住宅局建築指導課建築物防災対策室長、3年住宅局参事官(建築企画担当)を経て、5年7月より現職。

 2020年の「カーボンニュートラル宣言」以降、あらゆる産業がその実現に向けた変革を続けている。当然、エネルギー需要と二酸化炭素排出量が全体の3割を占める住宅・建築物分野も同様だが、具体的な政策、取り組みにはどういったものがあるのか。今回、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」の取りまとめや昨年改正された「建築物省エネ法」、既存ストックの省エネ対策として進められている支援事業、そして本年4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合で示された「建築物におけるゼロ・カーボン対応/ゼロ・エミッション」などについて国土交通省住宅局建築指導課の今村課長に話を聞いた。

国土交通省住宅局建築指導課長
今村 敬氏


カーボンニュートラル実現に向けた住宅・建築物政策

――「カーボンニュートラル宣言」以降、その実現に向けてあらゆる産業が大きな変革を続けています。住宅・建築物分野もさまざまな取り組みが進められていますが、まず住宅・建築物分野を取り巻く現状についてお聞かせください。

今村 2050年カーボンニュートラル、30年度温室効果ガス46%削減(13年度比)という政府全体の目標の実現に向けては、わが国のエネルギー需要、さらには二酸化炭素排出量の3割以上を占める住宅・建築物分野における省エネルギーの徹底を図ることが必要不可欠だと考えています。そのため国土交通省、経済産業省、環境省の三省合同により、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」を立ち上げ、50年および30年に目指すべき住宅・建築物の姿や住宅・建築物における省エネ対策の強化に係る取り組みの進め方を取りまとめました。

 取りまとめでは、「2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す」、「2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」という目標が明記されました。また同様のことは21年10月に閣議決定された新たなエネルギー基本計画や地球温暖化対策計画にも盛り込まれています。

――2030年度は新築、50年度にはストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能を目指すとのことですが、これまでの進捗はいかがでしょうか。

今村 これまで講じてきた法制度、予算、税制など各般の対策の進捗によって、新築住宅全体としては20年度時点で約84%、300㎡未満の小規模住宅に限れば約91%が省エネ基準に適合しています。しかし、20年度におけるZEH水準の新築住宅の割合は約25%、ZEB水準の新築建築物の割合も約31%にとどまっているのが現状です。そのため住宅・建築物分野においては、30年度までに省エネ基準をZEH・ZEB水準に引き上げることを見据え、取り組みの強化を図ることが喫緊の課題となっています。

 一方、住宅ストックの状況については、19年度時点の推計では、空き家を除く住宅ストック約5000万戸のうち、現行基準(1999年基準)相当の外皮性能を満たす住宅は約13%に過ぎず、1980年基準にも満たないほぼ無断熱の住宅が約29%を占めています。したがって、新築住宅の省エネ性能の確保だけでなく、ストックの更新・改修を通じて、ストックの平均的な省エネ基準を向上させることも必要不可欠な課題といえます。

改正建築物省エネ法による取り組み

――昨年(2022年)6月には、改正建築物省エネ法が公布されました。本改正法の概要、また改正に伴う取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか。

今村 ご指摘のとおり、昨年の通常国会において、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、同年6月17日に公布されました。この法改正は、建築物省エネ法の改正による省エネ対策の強化と建築基準法の改正による木材利用の促進を狙ったものです。

 改正法の一番大きな柱は、新築住宅への省エネ基準の適合義務化です。義務化が過剰な制約に当たらない環境が整いつつあるものの、市場の混乱なく義務化を実現するためには、十分な周知・準備期間の確保や未習熟事業者などに対する技術力向上の支援が必要です。

 そのような状況を踏まえ、新築住宅を含む全ての建築物の省エネ基準適合義務化については、25年春から施行することとしました。また義務化の施行に先立ち、22年度からの補助制度、23年度審査分からのフラット35(住宅金融支援機構)、さらに24年以降建築確認分から住宅ローン減税において、省エネ基準適合を順次要件化することで25年春の義務化の施行時点で基準適合が標準的・一般的対応となっている状態を目指すとしています。

――省エネ基準適合義務化に向けた取り組みも進んでいると。では、それ以外、より高い省エネ性能住宅を促進するような取り組みなどはあるのでしょうか。

今村 省エネ基準の義務化以外の施策として、より高い省エネ性能を有する新築住宅の供給促進を図るために建築物省エネ法に基づく誘導基準を22年10月からZEH水準に引き上げ、低炭素建築物や長期優良住宅の認定基準もZEH水準の省エネ性能に整合させるとともに、住宅性能表示制度において、省エネ基準を上回る多段階の断熱等級を設定しました。

 また、「住宅トップランナー制度」についても、従来、建売戸建住宅、注文戸建住宅、賃貸アパートの3区分をその対象としていましたが、本年4月から大手事業者が供給する分譲マンションを対象に追加しています。

今村 さらに、「省エネ性能表示制度」についても強化して24年4月からスタートすることとしました。欧米では、新築のみならず既存建築物も含めて、建築物の省エネ性能の表示が定着しています。そのため、わが国においても、省エネ性能の優れた建築物がテナント・借家人・購入者、さらには投資家などに選好されるように建築物の販売・賃貸時に省エネ性能の表示を推進することとした次第です。表示する事項や表示の方法などの統一的なルールを国が定めた上で、これに従った表示が行われない場合には国土交通大臣から事業者に対して勧告などの措置を講じることを可能としました。

 わが国には省エネ基準を満たしていない既存ストックが多数存在しており、こうした省エネ性能の低い建築物については、今後省エネ性能の高い建築物が一般化することに伴って、将来的に市場で低く評価される可能性もあると思います。

 購入や賃借を希望する人が候補となる建築物の省エネ性能を容易に把握し、比較することができるようになれば、省エネ性能の高い建築物に対する需要が増大し、結果として建築主や所有者にも、より省エネ性能の高い建築物を建築し、あるいは既存建築物の省エネ性能の向上のための改修を行う機運も高まるのではないでしょうか。