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国土交通省インフラDX 政策最前線/国土交通省 森下 博之氏

国土交通省の進めるインフラDX、その現状と今後の展望

もりした ひろゆき/昭和45年2月生まれ、奈良県出身。大阪府立大学大学院工学研究科機械システム工学専攻修了。平成6年建設省入省。21年中国地方整備局松江国道事務所長、23年中国地方整備局道路部道路調査官、25年一般財団法人先端建設技術センター技術調査部長、28年国土交通省道路局国道・技術課道路メンテナンス企画室企画専門官、30年総合政策局公共事業企画調整課施工安全企画室長、令和2年道路局国道・技術課技術企画室長、3年九州地方整備局企画部長を経て令和5年4月より現職。
もりした ひろゆき/昭和45年2月生まれ、奈良県出身。大阪府立大学大学院工学研究科機械システム工学専攻修了。平成6年建設省入省。21年中国地方整備局松江国道事務所長、23年中国地方整備局道路部道路調査官、25年一般財団法人先端建設技術センター技術調査部長、28年国土交通省道路局国道・技術課道路メンテナンス企画室企画専門官、30年総合政策局公共事業企画調整課施工安全企画室長、令和2年道路局国道・技術課技術企画室長、3年九州地方整備局企画部長を経て令和5年4月より現職。

少子高齢化による産業の担い手不足、自然災害の激甚化・頻発化などもあり、社会・経済活動を支える社会インフラを担う建設・土木分野を取り巻く状況は非常に厳しいといわざるを得ない。こうした状況の解決に向けて国土交通省は、ICT活用による生産性向上などのインフラDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進している。インフラDX の取り組みを一層加速化させる“躍進の年”とした本年に新設された国土交通省大臣官房参事官(イノベーション)の森下氏に国土交通省の進めるインフラDX の現状と展望について話を聞いた。

国土交通省大臣官房参事官(イノベーション)
森下 博之氏


インフラDX担当部局の新設

――国民生活や社会活動、経済活動を支える社会インフラを担う建設・土木分野。少子高齢化などもあり、産業の担い手不足が深刻化する中、本分野ではi-Constructionなど現場のプロセスにICT技術を導入して生産性の向上を図るプロジェクトを進めています。
 国土交通省では、本年度そうしたイノベーション担当の参事官を新設したと伺いましたが、まず、その点からお聞かせください。

森下 インフラが国民社会・経済から求められる役割の一つに安全・安心で豊かな暮らしの実現があります。昨今、少子高齢化により建設業だけではなく産業全体の担い手が少なくなっていますし、災害の激甚化・頻発化、そしてインフラの老朽化の進展といった厳しい現実の中で、その役割を果たしていかなければいけない状況にあります。さらに今後、災害やインフラの老朽化に対応していくためには、対応力を維持するだけではなく、さらに強化を図っていくことが必要になると考えられます。

 こうした現状において、建設現場の生産性向上や働き方改革の推進が重要になってきますが、これらを実現するアプローチの一つとして重要なものが、データやデジタル技術を活用して生産性や働き方を変えていく取り組みになります。

 国土交通省では、2016年から生産性の向上を目的にi-Constructionを進め、20年からはその分野や対象をさらに拡大したインフラDXを推進しています。インフラDXについては、昨年の3月にアクションプランを作成し、同年を〝挑戦の年〟と位置付けて取り組みを進めてきました。アクションプランは、河川や道路、鉄道や都市などさまざまな分野のDXに向けた取り組みを束ねた行動計画になりますが、これらをより一層進めていくためには各部局の取り組みに横串を通すといいますか、組織横断的・分野網羅的に進めていく必要があり、そのための中核として本年4月に大臣官房参事官(イノベーション)を設置し、土木・機械・電気通信の技術分野の職員約40名で構成する参事官グループを創設。本省をはじめ、国土技術政策総合研究所や全国の地方整備局などが一丸となってデジタル技術による変革、インフラDXを推進していくための体制を整えました。新たな体制の下で、8月にはアクションプランの改定版も公表したところです。

 また、生産性の向上や働き方改革を実現するという面の他に、建設業界のイメージ向上も期待しています。建設現場には以前は3K「きつい、汚い、危険」のイメージがありましたが、これを「給料(がよく)、休暇(が取れ)、希望(が持てる)」+「カッコいい」といった新3K+1へ転換させることにもインフラDXの取り組みが貢献できるのではないかと思っています。

i-Construction・データプラットフォームの現状と進捗

――さまざま分野があるだけに、その進捗を把握するだけでも大変そうですね。では、これまで進めてきたi-Constructionやデータプラットフォームの現状と進捗についてお聞かせください。

森下 i-Constructionについては、2016年からその取り組みをはじめ、現場の生産性向上を図るべく、トップランナー施策として①ICTの全面的な活用(ICT土工)②全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)③施工時期の平準化――を進めてきました。現在、直轄では対象工事の8割以上がICT施工になっていますので、取り組みもかなり広がってきたと感じています。今後は地方自治体が発注するような比較的小規模の工事にもICT施工を広げていきたいと考えています。ここ数年、デジタルデバイスが格段に進化しており、スマートフォンでも現場の測量が可能な時代になっていますので、比較的小さな工事・現場でもデジタルデータを使って生産性を向上できるような環境も整ってきたと思います。

 またICT施工の導入拡大とあわせて、もう一つ、ICT施工自体も進化させていきたいと考えています。このICT施工の進化をわれわれは「ステージⅡ」として、さらなる生産性向上に向けた取り組みを進めているところです。

――ICT施工のステージⅡとは、どういったものなのでしょうか。

森下 ICT施工を導入する前は、オペレーターが1から10まで建設機械を操作して施工してきました。これは建設の機械化という段階です。そしてICT施工では、人が1から10まで建設機械を操作するのではなく、ICTを活用することで建設機械がオペレーターをサポートしたり、一部は建設機械がオートマチックに実施してくれるようになります。土を掘削する作業、舗装する作業など、それぞれ建設機械による作業が効率化していくことで生産性の向上に寄与しています。

 そのさらに先としては、作業単位ではなく複数の作業が含まれる工事全体での生産性向上につなげていきたいと考えています。そのためには現場作業のさらなるデータ化が重要になってきます。例えば掘削であれば、リアルタイムで掘削している土量のデータ化、トラック運行では、積載量がどれくらいあるのか、またどこを走行しているのかといったデータになりますが、そうした建設現場のリアルタイムデータをもっと活用することで、作業単位の部分最適から工事単位の全体最適の世界にシフトしていく、これがICT施工の「ステージⅡ」です。

 繰り返しになりますが、そのための鍵になるのがデータです。建設機械のフィジカルな効率性を超えた世界。建設現場のデータを使って工事全体で生産性を向上させようという取り組みを具体化していく必要があると思っています。

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