
2026/08/10
犯罪や非行から立ち直ろうとする人を指導・支援することにより、新たな被害者も加害者も生まない社会を作る取り組みである「更生保護」。その活動は、国と地方、保護司をはじめとする民間ボランティア等の協働によって成り立ち、また産業界においても、これらの人を雇用するなど、更生保護に協力しようとする企業が増えている。こうした更生保護の現状、そして今後について、吉川崇保護局長に解説してもらった。
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「更生保護」に込められた二つの意味
まず、現在の刑法犯認知件数、すなわち刑法に規定する犯罪を警察が認知した件数の推移についてお伝えしたいと思います。同件数は2002(平成14)年の年間約285万件をピークに下がり続け、21(令和3)年には約57万件にまで減少した後、再び増加に転じ、24(令和6)年には約74万件となっています。
近年では、特殊詐欺や匿名流動型犯罪の増加が著しく、性犯罪や家庭内犯罪、高齢者や少年による犯罪も増加傾向にあるなど、犯罪情勢は、従来と異なるフェーズに移行しつつあると言えるでしょう。また、24(令和6)年に警察等に検挙された者19万1826人のうち、再犯者の数は8万8697人、率にして46・2%を占めており、再犯の防止は、犯罪対策において主要な取り組みとして位置付けられます。
では「更生保護」は、具体的にどのような取り組みでしょうか。法務省保護局HPにお示ししているように、端的に言えば、「更生保護は、国と地方、保護司など民間ボランティアや団体が協力し、社会の中で、犯罪や非行から立ち直ろうとする人を指導・支援することにより、新たな被害者も加害者も生まない社会をつくる取り組み」です。すなわち、「更生保護」には、犯罪や非行をした人の立ち直りに向けた指導・支援という「保護」と、再犯を防いで社会を「保護」するという二つの意味が込められています。犯罪や非行の背景にはさまざまな要因がありますので、それら負の要因を排除し生活環境を整えることで、再び犯罪や非行を行わないようにすること、それが「更生保護」です。
犯罪の発生後、警察による逮捕や検挙、検察による起訴・不起訴、裁判所での判決、そして実刑だと刑務所に入る、という流れが刑事司法手続きの一般的なイメージだと思います。他方、刑務所を出た後、その人がどのように社会に戻って自立していくのかは小説やドラマ等でもあまり描かれず、多くの人には知られていません。
しかし、現実には社会復帰までに長いストーリーがあり、その中に更生保護が存在します。更生保護はまさに刑事司法手続きの一部であり、警察から始まる一連の刑事司法手続きは、更生保護まで含めて全体像を成しているのです。
保護司に支えられる日本の更生保護
こうした更生保護の制度・取り組みは世界各国に存在しますが、日本の更生保護の最大の特徴は民間の「保護司」の存在です。大半の国々では保護観察官などの専門職員が更生保護を担っていますが、日本の場合、国の職員である保護観察官約1200人に対し、保護司が全国各地域に合計約4万5000人存在し、こうした体制により、年間約11万人の更生保護の対象者を指導・支援しているという構図になります。
保護司とは、法務大臣から委嘱され、非常勤の国家公務員としての身分を有しつつ、地域の人々や事情等をよく理解している民間人として更生保護に取り組むボランティアです。給与は支給されませんが、通信費や交通費など職務に要した費用が国から実費弁償金として支給されます。保護司の職務は、まず、犯罪や非行をした人に対する保護観察や生活環境の調整等の「処遇活動」を行うことであり、職務遂行に必要なスキルアップのために研修等にも参加しています。さらに、地域の「犯罪予防活動」も職務とされており、薬物乱用防止教室など学校での出前授業をはじめ、更生保護の啓発や青少年の育成に関する多岐にわたる活動を行っています。なお、個々の保護司の活動をサポートするため、各地域の保護司によって構成される保護司会が全国883地区に組織されています。
こうした官民協働の更生保護の形は、その歴史的背景に由来しています。遡ると、1888(明治21)年、実業家の金原明善が静岡監獄の副典獄(現在の刑務所の副所長)とともに「静岡県出獄人保護会社」を設立し、出所者に対する宿泊場所の提供や就職のあっせんを行うとともに、県全域に1700人の保護委員を設置しました。その後、全国各地に同様の活動が広がり、現在の更生保護施設と保護司制度の先駆けとなりました。2007(平成19)年の「更生保護法」の成立によって、現在の更生保護制度が確立しましたが、かつての民間篤志家の熱意は、今も保護司など民間の協力者に継承されています。
人が社会復帰を果たすまでの道のり
更生保護の制度・取り組みの中心は、「保護観察」であり、その対象となるのは、裁判所の判決や審判により、「保護観察付執行猶予とされた者」、「保護観察処分とされた少年」、そして、「刑務所から仮釈放となった者」、「少年院から仮退院となった少年」です。
保護観察は、保護観察官と保護司が中心となり、他の民間協力者と協働して実施されます。以下、覚醒剤取締法違反で実刑判決を受けたAさん(架空)のケースを例として、どのような指導・支援を受けて社会復帰していくのかを説明します。
刑務所での受刑中は、矯正処遇を受けます。Aさんは、工場での作業等を通じて改善更生への意欲を醸成しつつ、社会生活に必要な知識や生活態度を身に付けるための「一般改善指導」や個別事情の改善のための「特別改善指導」(薬物からの離脱のための「薬物依存離脱指導」など)を受けます。
これらと並行して、保護観察官や保護司は、刑務所とも連携して、Aさんや親族等との面接等を通じ、出所後の社会復帰に向けた準備を進めます。これを「生活環境の調整」と言います。具体的には、帰住先や身元引受人、就労先等の確保に向けた調整を行います。帰住先は親族や友人宅のほか、更生保護施設、自立準備ホーム、社会福祉施設、住み込み就労先なども候補に挙げられます。このうち更生保護施設は、自立が困難な人に対して一時的に宿泊場所や食事を提供する民間団体であり、現在全国に102施設(定員合計2378人)が存在します。
身元引受人や帰住先等が決まり、法務省の機関である地方更生保護委員会の決定により刑務所を仮釈放となると、仮釈放の日から刑期の終了までの期間、保護観察を受けながら社会復帰を目指します。Aさんは、帰住先は更生保護施設、身元引受人は同施設の施設長と決まり、就職先はまだ確定していないものの、社会内での更生が適当と判断され仮釈放が許可されました。Aさんは、保護観察期間中、すべての保護観察対象者に一律に設定される一般順守事項(保護観察官および保護司による指導監督を誠実に受けることど)に加え、個々の対象者の問題性に合わせて設定される特別順守事項(Aさんの場合は保護観察官による薬物再乱用防止プログラムの受講など)を順守しながら生活を送ります。仮に、これらの順守事項に違反した場合は、仮釈放が取り消され、刑務所に再度収容する措置が取られ得ることとなります。
保護観察の開始に当たり、保護観察官は、刑務所内での処遇の状況や対象者との面接結果等をもとに、犯罪に至った原因の分析や再犯リスクの評価(アセスメント)を行い、保護観察の実施計画を立てます。そして保護司や更生保護施設、必要に応じて福祉・医療機関、地方公共団体等とも連携・協力しながら、必要な指導・支援を行っていきます。