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集中連載/所有者不明土地の存在に今後どう対応していくのか

所有者不明土地対策の現状と今後の対応について
〜改正所有者不明土地法により、地域の取り組みをこれまで以上に後押ししていく〜

いちかわ あつし/昭和39年7月16日生まれ、長野県出身。東京大学法学部卒業。平成元年建設省入省、25年国土交通省住宅局住宅企画官、27年水管理・国土保全局水政課長、28年総合政策局政策課長、30年大臣官房会計課長、令和元年大臣官房審議官(総合政策)、3年7月より現職。
いちかわ あつし/昭和39年7月16日生まれ、長野県出身。東京大学法学部卒業。平成元年建設省入省、25年国土交通省住宅局住宅企画官、27年水管理・国土保全局水政課長、28年総合政策局政策課長、30年大臣官房会計課長、令和元年大臣官房審議官(総合政策)、3年7月より現職。

2017年に「所有者不明土地問題研究会」(増田寛也座長)が発表した内容は、極めて深刻ながら知られざる所有者不明土地の存在を国民全体に突き付けた。この問題に対し、政府は、2018年に「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議」を立ち上げ、同年の「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の制定を皮切りに、関連する法整備を着実に進めているところである。今号より3回にわたり、関係省庁にこうした所有者不明土地問題への、対策の現状と今後の方向性について語ってもらう。初回は国土交通省より、市川土地政策審議官に登場をお願いした。

国土交通省 土地政策審議官
市川 篤志氏

所有者不明土地とは何か

――所有者不明土地問題というと、現・日本郵政社長の増田寛也氏が座長を務めた「所有者不明土地問題研究会」が、2016年時点で全国の所有者不明土地の合計面積が九州本島の面積(約367万ヘクタール)を上回る約410万ヘクタールに及ぶとの報告書を発表し、大きな話題になったことが記憶に残っています。実際のところ、現在どのくらいの土地が所有者不明となっているのでしょう。

市川 まず申し上げたいのは、所有者不明土地は、誰かが土地の所有者を探索した結果初めて「所有者不明である」ことが分かるものであるということです。全国の土地の筆数は約2億3000万筆あると言われており、どれくらいの所有者不明土地が存在しているのか網羅的に把握することは、現実的には極めて困難です。

 一方で、「所有者不明土地問題研究会」が行った推計の前提となった地籍調査においては、不動産登記簿上で所有者不明である土地の比率を調査しており、2020年度の調査では、約24%が所有者不明でした。

――そもそも、なぜ土地の所有者が不明という事態が生じるのでしょう。

市川 人口減少・少子高齢化が進むわが国においては、土地所有に対する考え方が大きく様変わりしています。例えば、国土交通省が実施している「土地問題に関する国民の意識調査」では、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か」という質問に対し、「そう思う」と回答した者の割合は、1993年には61・8%でしたが、2020年には21・5%にまで減少しています。地方から都市への人口流出が盛んになり、地方の土地が顧みられなくなる。長らく都会で生活されている方が故郷の土地を相続したものの、その土地がどこにあるのかも分からない、という話も少なくありません。

 また、21年の民事基本法制の見直しまでは、相続登記が義務付けられていませんでした。土地を相続したはいいものの、相続登記がなされないまま放置され、さらに数代相続が進んでしまうケースも多く、結果として、登記簿を見ただけでは本来の所有者が分からないという事態が発生してきたのです。

――所有者不明土地が増えると、どのような弊害が生じるのでしょう。

市川 大きく2点あると考えています。

 1点目は、円滑な土地利用の支障となることです。これは、特に2011年の東日本大震災の後、被災地の復興事業において深刻な問題としてあらわれました。当時、津波で被災された方々の住宅を高台に移す復興事業が計画されたものの、移転先の土地所有者が分からないケースが多発し、事業が大きく遅延する事態となりました。こうした土地がある場合、公共事業を実施するための用地取得に際して、所有者の探索や手続に莫大な時間的・人的コストが生じるためです。こうした事態は民間事業者の土地取引に際しても同様に発生しており、地域活性化の阻害要因の一つとなっている、という指摘もあります。

 2点目は、適正な管理がなされないことです。所有者不明土地は、所有者による自発的な管理が行われる可能性が低い土地であり、適正に管理されないまま放置されて、土砂の崩落などの災害や、害虫の発生など地域への悪影響による被害が発生するケースもあります。実際に、高台にある家屋が火災による焼失後放置され、瓦礫等が残ったまま所有者不明土地となり、それらの落下により近隣住民に危険を及ぼしているような事例も耳にしています。

 土地を所有する方の権利は守っていく必要がある一方で、土地基本法第2条において定められているとおり、「土地は、…公共の利害に関係する特性を有していることにかんがみ、…公共の福祉を優先させる」ことも重要であり、社会経済情勢の変化も踏まえつつ、土地所有者の権利の保護と、公共の福祉のための制約、そのバランスを取りながら、所有者不明土地対策を進めていく必要があると考えています。

所有者不明土地の利用や管理、そして発生抑制に向けた対応

――所有者不明土地問題に対し、政府はどのように対応してきたのでしょうか。

市川 所有者不明土地の円滑な利活用・適正な管理や、そもそも所有者不明土地の発生を抑制するために対応していくべきであるとの認識のもと、2018年1月に内閣官房長官主宰で関係閣僚会議が立ち上げられ、同年には所有者不明土地法が制定されたほか、農業経営基盤強化促進法等の改正、森林経営管理法の制定がなされました。

 2020年には土地政策の基本理念として「適正な管理」を盛り込んだ土地基本法の改正が、2021年には所有者不明土地の発生抑制等を図るため、相続登記の申請義務化等を内容とする民事基本法制の総合的な見直しが行われるなど、関係省庁が一体となって着実に制度改正を進めてきています。

 そして今般、一連の流れを汲むものとして所有者不明土地法を改正し、去る5月9日に公布され、公布後6カ月以内とされている施行を目指して取り組んでいるところです。

――さまざまな制度改正が為されているのですね。その皮切りとなった所有者不明土地法とはどのような法律なのでしょうか。

市川 同法は、所有者不明土地の円滑な利活用を図ることを基本骨子としています。具体的には、地域住民等の福祉・利便の増進のための公益性の高い事業を実施するため、都道府県知事の裁定により、10年間を上限として所有者不明土地の一定期間の利用を可能とする地域福利増進事業や、所有者不明土地が存在する場合に土地収用手続を合理化・円滑化する特例を設けた点が、大きなポイントになります。

――それでは、今般の改正についてお伺いしていきます。大きくどのような改正法なのでしょうか。

市川 今般の改正法は、所有者不明土地の「利用の円滑化の促進」、「管理の適正化」、それらの施策を地域でしっかりと取り組んでいただくための「推進体制の強化」の三つの柱で構成されています。「利用の円滑化の促進」は先述した従来の制度の使い勝手を良くする拡充、「管理の適正化」と「推進体制の強化」は今回新たに創設したものです。