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集中連載/所有者不明土地の存在に今後どう対応していくのか

激甚化・頻発化する自然災害への対応の観点からさらなる利用を促進

(資料:国土交通省)
(資料:国土交通省)

――では、改正の内容について順番にお聞かせ願えれば。一つ目の柱についてはいかがでしょうか。

市川 「利用の円滑化の促進」を図るための仕組みとして、地域福利増進事業等をより使いやすいものに改正しました。背景としては、制度の創設以降、地域福利増進事業の活用実績が1件に留まるなど、活用がなかなか進まなかったことがあります。そもそも土地所有者の探索に膨大な労力がかかることも理由としてありますが、制度自体についてもより使いやすくしてほしいという声が上がっており、改善が必要であると考えておりました。

 具体的な改正内容としては、例えば、地域福利増進事業の対象となる事業は法令で定められているのですが、もともと対象となっていた広場や公民館などに加え、備蓄倉庫等の災害関連施設や再生可能エネルギー発電設備を整備する事業も対象に追加しています。これらは地方公共団体や民間事業者からの要望を受けたものです。

 また、大きな改正ポイントとして、土地だけでなく一定の建物が存在する場合にも対象を広げたことがあります。これまでは原則として更地を対象としていましたが、所有者不明土地には老朽化した空き家等が建っていることも多く、制度を利用する上での制約となっていました。これを受けて、老朽化した空き家等が建っている場合でも、地域福利増進事業等の事業対象にできるよう改正したものです。

――なるほど、所有者不明土地問題は空き家問題とも密接に関わるので、それをセットで対応できるようにしたというわけですね。

市川はい。所有者不明土地問題と空き家問題は、土地と建物がしばしば一体となって利活用されるものであることからわかるように、密接に関連しているものであり、対策も連携が不可欠であると考えています。

――地域福利増進事業について、その他にも改正点はあるのでしょうか。

市川 一部の対象事業について、土地使用権の上限期間を10年から20年に延長しました。事業者の方からすると、10年しか土地使用の保障がされない、というのでは資金調達計画が立てにくいのが実情ですので、一部事業を民間事業者が整備する場合には上限を伸ばすこととしました。

 また、事業実施前に必要となる事業計画書等の縦覧期間について、より強い権利制限を伴う土地収用の縦覧期間が2カ月であるなどの実態を踏まえ、6カ月から2カ月に短縮し、迅速化を図りました。さらに、事業者が供託する補償金について、これまでは一括供託が必要とされていたところ、分割での供託も可能としました。こうしたスキーム改善により、制度の活用が進むものと期待しています。

所有者による管理が見込めない場合は市町村長による対応を可能に

――所有者不明土地の適正管理についてはいかがですか。利活用の促進はもちろん重要ですが、どう適正な管理を確保していくのかが重要と思われますが。

市川 その通り、重要であると考えています。このため、二つ目の柱として、「管理の適正化」を図るため大きな改正を行いました。管理が行き届かず、この先も管理が実施されそうもない所有者不明土地に対し、周辺地域における災害や著しい悪影響の発生を防止するため、市町村長による勧告・命令・代執行を可能としたところです。

――現場で所有者不明土地を抱える市町村長が活用できる選択肢を、新たに創設した点は非常に有意義かと。

市川 この法律全体の理念でもあるのですが、所有者不明土地の対応で苦心されている、市町村をはじめとする地域の方々が使える仕組みを充実させることが最も重要なのです。適正な管理がされてない土地、すなわち管理不全土地は災害発生リスクを高めるだけでなく、平素は不法投棄の現場にもなりやすく、地域で対応に苦慮しています。所有者が明らかであれば、市町村が定める条例により改善を促すこともできるのですが、所有者不明ではそれもできません。制度的な隘路となっていたところを、今回の改正により突破口を開いたことに大きな意味があると考えています。

――その他にも、管理の適正化を図るための仕組みなどはあるのでしょうか。

市川 民法の管理不全土地管理命令について、市町村長が請求することを可能とする特例を創設しているほか、これら管理の適正化を図るための措置に際して所有者探索を実施するため、固定資産課税台帳などの情報を利用・提供することを可能とし、所有者探索の迅速化も図っています。

所有者不明土地等に対する地域の関係者による志ある取り組みを支援するために

――他方、そもそも所有者不明土地をこれ以上出さないための対策が重要かと思われます。

市川 その通りで、例えば周辺と比較して十分な利活用がされていない土地、すなわち低未利用土地は、将来的な所有者不明土地の予備軍と言え、できるだけ利用を進めていくのが望ましいものです。こうした低未利用土地の利活用の促進も含めて、三つ目の柱として、地域における所有者不明土地対策の「推進体制の強化」を図るための仕組みを創設しています。具体的には、①計画制度及び協議会制度、②所有者不明土地利用円滑化等推進法人の指定制度、③国土交通省職員の派遣制度、の3点です。

 まず、①については、市町村が、所有者不明土地に関する計画を作成したり、地域の関係者と対策を協議する場を設けたりすることで、地域一体となって取り組む体制を強化するものです。併せて、市町村の計画作成や、計画に基づいて実施する事業に対して支援する補助制度も新設しています。

 次いで②について、現在、さまざまな地域で、地元の活性化を図るべく低未利用土地等の利活用の推進を行う団体が活動しています。例えば山形県鶴岡市では、そうした団体が地元の不動産業者の方などと連携し、土地所有者と新たな購入者を繋げるコーディネート活動などを行っています。こうした団体の活動を応援するため、市町村長が、地域で活動されているNPO等を所有者不明土地利用円滑化等推進法人として指定し、公的信用力を高めることができる仕組みを創設しました。指定された推進法人は、市町村長に対して計画作成の提案などが可能となります。

 最後の③については、こうした地域の志ある取り組みを国としても応援するため、市町村長からの要請に応じ、国土交通省の職員を派遣する制度です。地方整備局の用地部職員は土地所有者を探索するノウハウに長けており、人手不足の市町村の取り組みをサポートできます。

――財政的支援と人的支援をともに法制化したところに、対策への意気込みが感じられますね。

市川 先述の通り、対策を進めていく上で最も重要なのは、市町村をはじめとする地域の方々の取り組みをしっかりと支援していくことであると考えています。そのために、国としても全力でサポートしていく仕組みを整えています。

今後の所有者不明土地対策の展望と期待

――今回の法改正によって、各市町村がこれまで以上に所有者不明土地に本腰を入れることが期待されます。

市川 2019年に、地方整備局や法務局、都道府県、関係士業団体が連携して所有者不明土地対策を進めていけるよう、全国10地区で「所有者不明土地対策推進協議会」を設けましたが、今般の改正を契機にその活動を拡大し、市町村や中小不動産関係団体等を新たに会員として加えるとともに、名称も「土地政策推進連携協議会」に改めました。例えば、ノウハウが乏しい市町村に対するノウハウ共有、相談窓口の設置、民間団体と連携した相談会の開催など、連携協議会の活動を活発化させていくつもりです。

――冒頭にお話のあった法制定以後、1件にとどまっていた地域福利増進事業が大幅に増加するのではないかと想定されます。

市川 そう期待しています。今般の改正を踏まえた目標として、まず地域福利増進事業における土地等使用権の設定数を、施行後5年間で累計75件と、現在の1件から着実に増加していくことを見込んだ件数を設定しています。また、計画の作成数を同累計150件、推進法人の指定数を同累計75団体となるよう掲げています。今後はこの目標を達成するべく、今回の改正のポイントなどを各市町村にできるだけ分かりやすく発信し、積極的な周知を行いたいと考えています。

――民間におけるプレイヤーとしてはどのような分野がカギになるでしょう。

市川 例えば宅地建物取引業者、土地家屋調査士、司法書士といった専門家の方々が行政やNPOと密に連携を取っている地域は、先述した鶴岡市のように、他地域の先行となるような事例を体現しています。こうした取り組みの輪が周辺市町村に波及していくことも多いに期待しています。

――この問題は、明らかになるまで長らく手付かずだったにもかかわらず、顕在化してから今日まで、非常に迅速に対応・対策が施された政策と言えるのではないでしょうか。

市川 冒頭で申し上げた通り、2018年に立ち上げられた関係閣僚会議は定期的に開催されており、これを司令塔として、関係省庁が密接に連携しながら、いくつもの制度改正を進めてきました。これは、この問題がわが国にとって喫緊の課題であり、今手を打たないと、という認識が政府内で共有された結果です。

 もちろん、今後もこの歩みを止めず、できることから対策をさらに前進させていく必要があります。今般の改正法においても、5年を目途として施行状況について検討を加え、必要な見直しを行うこととしているところです。

 国土交通省としても、内閣官房をはじめ、法務省、農林水産省、総務省といった関係省庁と、これまで同様密接に連携しながら、引き続き取り組んでいきたいと考えています。

――省庁連携の重要な事例ですね。次回以後、法務省や農水省にもお話を伺いたいと思います。本日はありがとうございました。
                                                (月刊『時評』2022年6月号掲載)