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【末松広行・トップの決断】神明HD藤尾益雄氏

注目を集める〝米から作っ たチーズ〟

末松 他の事業展開についてはいかがですか。

藤尾 次いで2014年に炊飯会社コメックス(現:株式会社Shinmei Delica)の株式を取得、それを2015年に神明デリカ(現:株式会社Shinmei Delica)として始動させ、さらに2020年モチクリームジャパンをグループ傘下に招き、そして直近では2021年に米加工品会社の株式会社神明米粉を設立しました。私は、いずれは小麦粉のように、米も粉に加工して多様な食品に応用される時代が来ると考えていましたが、近年の加水分解技術向上により、従前より粒が細かく水に溶けやすい、乳化剤のような働きがある、劣化しにくいなど、従来の米粉の問題点をクリアする品質の米粉が生産できるようになりました。神明米粉では今年5月に工場が稼働を始め、斬新な商品を相次いで開発しています。

末松 例えばどのような商品でしょう。

藤尾 目下のところ最も注目を集めているのは、米から作られたチーズですね。乳および乳製品はもちろん、アレルゲン物質を一切使用してない植物性チーズです。欧米では数年前から、日本でも徐々に広がりを見せているヴィーガン市場に対応した新しいチーズとして注目されています。実際にこのチーズを使ったピザを食べた方は、チーズが米から作られたと聞いて皆さん驚かれます。ナチュラルチーズやプロセスチーズのような食感と風味を再現しています。

末松 チーズは調理の用途が非常に幅広いので、これが米で製造し消費されるようになれば、食生活の場面そのものが多く変化する可能性がありますね。

もち粉を原料とした代替チーズ (資料提供:神明ホールディングス)
もち粉を原料とした代替チーズ (資料提供:神明ホールディングス)

藤尾 はい、乳製品のチーズは価格の変動が大きいのに対し、米からチーズを作った方がはるかに低価格で安定しています。

末松 これは売れそうですね。コロナ禍でピザをはじめデリバリーサービスが隆盛の現在、提携や子会社化などでいかようにも需要の喚起が可能だと思われます。むしろ欧米からの需要の方が先に高まるのではないでしょうか。

藤尾 他にも、2018年に機械麺や手延べそうめんを製造するカネス製麺株式会社、2020年に無添加ドーナツの株式会社フロレスタをグループ傘下に招き入れました。今後はドーナツをはじめ、米粉を使ったスイーツを幅広い世代に提供できればと思います。何しろ米で作ればグルテンフリーですから、多くの人々に受け入れられる余地があると想定しています。

 また、和食には水産がつきものですので、水産加工会社である株式会社神戸まるかんと株式会社ゴダックを2017年に共に子会社化しています。

米の消費量増へ回転寿司チェーンを子会社化

末松 流通も川中部分に含まれますが、この領域では米だけではなく、多彩な農産物の流通促進を図っておられるそうですね。

藤尾 私自身、長年にわたり米の仕入れから販売に携わってきましたが、昨今の米価の低下が続く中で、米だけでは日本の農業、生産者を守ることはできない、と痛感しています。ただ、日本では年間を通じて米作りをしているわけではなく、それなりの農閑期があります。農閑期に野菜や果物を作る活動を推進してきたのですが、ならばその生産物を、責任をもって買わねばなりません。とはいえ仕入れの実績は米だけで、当社も野菜等についてはノウハウがありませんでした。

 そこで2017年に東果大阪、2018年に成田市場青果(現:シティ青果成田市場)、岡山大同青果、2021年に東京シティ青果の親会社である東京中央青果と、東西の青果市場を相次いで子会社化しました。これら青果市場部門のみで、現在1300~1400億円ほどの売り上げを確保しています。このように流通部門の充実化を図る一方、私は従前から、将来的には工場で青果を育てる時代が来ると主張してきましたので、来たるその時代に備えて、そのノウハウを蓄積するために、2020年にもやしを生産する名水美人ファクトリーと、雪国まいたけを同時に子会社化しました。

末松 2021年11月に、流通に関するプレス発表を行ったとのことですが、これはどのような内容ですか。

藤尾 米は日持ちがするのに対し、野菜などはすぐに品質が劣化します。青果流通において生産者・小売側で情報(データ)を持たないことから市場に物が集まりすぎると、破棄せざるを得なくなったり、鮮度が命である青果において複雑な物流経路を通るなど、無駄が多いのが現実です。市場と生産現場のミスマッチがその一因です。そこで昨年、NTTグループ様と、東果大阪で「農産物流通DX」を発表しました。需要と供給の安定化を図るためマーケットインの流通を目指すのが、主たる趣旨となります。実際のところマーケットインは難しいものですが、DXを活用することで数年後の実用化を目指していきます。

(資料提供:神明ホールディングス)
(資料提供:神明ホールディングス)

末松 では、川下に当たる部分はいかがですか。

藤尾 2012年に回転寿司大手チェーン「元気寿司株式会社」の筆頭株主となり、2015年には同社を子会社化しました。現在、海外で200店舗超、出店しています。実は、2011年にインドネシアのジャカルタに行ったとき、現地の回転寿司店に入ったところ、これが大盛況で、しかも客層は日本人ばかりではなく、東南アジア、東アジア、欧米人まで多様な人種が日本と同様のスタイルでごく自然に寿司を食べていました。この光景に驚きまして、それなら外食産業の有望株は回転寿司であろうと確信したのです。回転寿司であれば米の消費量も増えるし、手軽に口にしてもらえます。その中で元気寿司株式会社はこの当時、まだ海外の日系企業が少ない状況下で、積極的に海外進出を図っている希少な回転寿司のチェーン企業でした。そこで私の方から熱心にアプローチし、同社の筆頭株主になれた次第です。

 さらに2021年には食材宅配で知られるショクブンを子会社化しています。家庭に食材をお届けするという方式は、このコロナ禍においてまさにスポットが当たっているスタイルです。ライフスタイルの変容に対応しつつ、ご家庭で米をもっと食べてもらえるきっかけづくりになるものと考えています。

 例えば、当社が運営する米の直営店舗「米処四代目 益屋(ますや)」は、対面販売に特化しています。これは、米を買う決め手は必ずしも価格ばかりではない、確かに育ちざかりのお子さんがいて量を食べる家庭では価格を重視するでしょうが、50代以降のご年齢層になると、生産者や産地にこだわって米を買うケースが増えていきます。「米処四代目 益屋(ますや)」ではそうした需要に応えるべく、生産量が少なく高品質な米を、お客さまの好みに応じて対面で提供しており、価格が高い米ほどよく売れています。

末松 米本来の販売方法でもまだまだ販路拡大の余地がある、ということですね。

藤尾 その点では、おにぎりの販売にも力を入れています。おにぎり専門店を運営する「米処 穂(みのり)」を東京日本橋に構えているほか、また外食事業の〝まん福ホールディングス〟と合弁し、「TARO TOKYO ONIGIRI」というカラフルで多彩な創作おにぎりを販売する店舗を、今年5月東京虎ノ門にオープンしました。これは将来、海外にも広げていくつもりです。SUSHIと同様、ONIGIRIが海外における日本食の代名詞になれば、と。