お問い合わせはこちら

大石久和【多言数窮】

トランプ大統領の懸念

おおいし・ひさかず/昭和20年4月2日生まれ、兵庫県出身。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。45年建設省入省。平成11年道路局長、14年国土交通省技監、16年国土技術研究センター理事長、25年同センター・国土政策研究所長、令和元年7月より国土学総合研究所長。
おおいし・ひさかず/昭和20年4月2日生まれ、兵庫県出身。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。45年建設省入省。平成11年道路局長、14年国土交通省技監、16年国土技術研究センター理事長、25年同センター・国土政策研究所長、令和元年7月より国土学総合研究所長。

多言なれば数々(しばしば)窮す(老子)

――人は、あまりしゃべり過ぎると、いろいろの行きづまりを生じて、困ったことになる。

 安倍首相が、あるとき閣僚級の議員を指して「彼は中国のハニートラップにかかったことがあるのではないか」と仲間に話したことがあるという。

 そのようなことがあるのかもしれないと感じてしまうのは、中国に厳しいと予想されるトランプ大統領の時代になったというのに日米関係への影響も顧みず、与野党の政治家が群れをなして何度も中国に出かけては、ほとんど何を意味するのかよくわからない「戦略的互恵関係」を確認してみたり、大変な金額負担を要求されるにもかかわらず、また和歌山県白浜町の町長が「町はパンダから脱却する」と言っているのに、多くの与野党の政治家が繰り返しパンダの貸与を要請しているのを見ると、ハニーの存在を感じてしまうのだ。

 このような状況は政治家だけにあるのではなく、新聞テレビなどのオールドメディアにも顕著な傾向なのである。中国に関しては、まるで腫れ物に触るような態度なのだ。

 今回の参議院選挙でも再選された有村治子議員は、次のデータを示して政府の見解を問うたことがある。それは名門の国立大学での留学生の実態、特に中国人の急増についてであった。その一部を示すと、以下の内容だった。(カッコは中国人数、%は留学生の中国人割合)

東京大学
 2009年 2555(769)30%
 2024年 5104(3396)67%

京都大学
 2009年 1430(571)40%
 2024年 2942(1674)57%

東北大学
 2009年 1346(608)45%
 2024年 2147(1302)61%

 これによると、近年の14年間で「東京大学の留学生数は約2倍に増え、特に中国人は約4・4倍と急増して、留学生の67%もが中国人」なのである。京都大学も東北大学も留学生が急増している様子や、中国人の高い占有率は東大と変わらない。

 これらの大学には日本政府が全国の国立大学の中でも最も多額の運営費用を支出しているのだ。つまり国民の血税が最も大量に注がれている大学なのである。これを知って驚かなかったり、何らかの対応が必要だと感じない政治家は国政から去るべきであると考える。

 トランプ大統領がハーバード大学のリベラル色が強すぎると批判し、留学生の多いことにも厳しい目を向けているが、ハーバード大学でも数多い留学生は中国人である。このような状況にあっても、新聞テレビは有村先生の指摘や、こうしたデータを紹介することはない。

 従って、ほとんどの日本人はこの実態を知ってはいないのだが、これは日本の主権者・納税者が知らなくていい情報なのだろうか。オールドメディアは、中国人が多すぎるのではないか、日本の国立大学は日本人を教育するところではないのか、といった声が出ることを恐れているのだ。しかし、大学自身や文科省はこの実態は容認すべきと考えているのだろうかとまるで疑問なのだ。省略するが奨学金の問題も指摘されている。

 忘れてはならないのは、中国人は国籍を離脱しない限り、世界のどこにいても中国に安全保障上の問題が生じたときには、「中国の安全保障のために戦う」ことを誓う国防動員法に支配されていることである。日中間に安全保障にかかる事件が起きたときには、日本の大学にいる中国人留学生は中国の安全を保障するために、日本で騒動を起こさなければならない義務を負っているのである。それなのに、こんなに大量に、日本人の学生を排除しながら受け入れてもいいのだろうか。

 互恵関係にも疑問がある。ある外交官OBは「戦略的」などという意味のはっきりしない用語を用いるべきではないと述べているが、そもそも「日本人は中国の土地を取得できないのに、中国人は日本の土地を買いまくることができて」どこに互恵関係があるというのだろう。

 近年、中国経済が不調で、ホームレスが急増したり若年層が大就職難に陥っていると言われ、ルンリィーという富裕層の中国離れが著しく、多くの豊かな中国人が大都市でも地方でも大量に日本の土地を取得していると言われているがきちんと報道されてはいない。中国でホームレスが路上にあふれているといった貧困化情報も、フランスのルモンドでは報道されたことがあるというが、日本のメディアは中国の怒りを恐れて全く報道していない。

 北海道の高級リゾート地であるニセコや、東京の一等地の高級マンションなどが買いあさられている。東京沿岸部のタワーマンションなどでは高価な上層階が中国人に占領されている状況だという話もある。これでは南海トラフ地震が切迫しているという日本でいざ大地震だという時、われ先にを優先する中国人と地域の人々が揃って秩序ある避難行動ができるわけなどなく、大混乱が容易に予想されるのに政府も東京都も放置したままである。

 2025年7月19日付の産経新聞によると、過去1年間に日本国籍を取得した帰化許可者数は8800人だったが、そのうち中国人は3100人と過去最大で、韓国系を過去50年間で初めて上回ったという。日本人の出生数が政策の誤りによって激減しているときに、これは恐ろしい話である。

 駐日アメリカ大使が繰り返し述べている中国製麻薬フェンタニルについても、日経新聞のスクープ以外はほとんどのオールドメディアが触れることはない。トランプ大統領がカナダからの関税を引き上げる理由に使ったフェンタニルが、なんと名古屋の中国系企業からアメリカに渡っていた可能性が高いにもかかわらずだ。日本からのフェンタニルについては、大統領は沈黙しているが、いつ爆発するのか、何に結びつけるのか、実に心配である。

 政治家は中国が何か問題を起こしても、遺憾としか言えないようである。戦闘機が領空に入っても、自衛隊機に異常接近しても、日本の経済水域にブイを置かれてても、日本人が容疑のはっきりしない罪状で逮捕されても、また懲役に処せられても、とにかく中国が日本の国益を損なうようなことの何をしても「遺憾」なのだ。遺憾には抗議の意味も何もなく、ただ「残念」という意味しかないのである。それこそ実に遺憾な話である。これでは多くの政治家(多くのメディア関係者も?)は、トラップにかかっていると断じざるを得ない気分になるのだ。

 最後にTOEIC試験の話である。23年5月~25年6月の間に803人もの不正に関与した受験者があり、それには中国人組織が関与していた疑いがあるという。

(月刊『時評』2025年9月号掲載)