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俵孝太郎「一戦後人の発想」【第103回】

悪銭 身につかず の典型例~若者の武漢コロナ激増の裏に一律10万円バラ撒きが作用~

 一時底を打っていた武漢コロナ・ウイルスの新規感染者が、〝夜の街〟で急増した理由は、何のことは無い10万円という〝アブク銭〟を手にした若者がキャバクラ、ホスト・クラブに繰り出した結果に他ならない。背景には、半ば常套化した公明党の〝バラ撒き〟政策がある。

 悪銭、身につかず、とはよくぞいったものだ。この古くから言い伝えられた処世訓のまたとない典型例が、21世紀の「令和」の大御代に、突如として襲来した。

 その例とは、ほかでもない。中国・武漢起源の新型コロナ・ウイルスによる呼吸器感染症の日本への大流行に伴う国民生活の困難に対処する、という触れ込みのもと、全国民に1人当たり一律現金10万円を給付する、という珍政策が実現し、現実に給付が進んだことだ。それと符節を合わせるように、東京・新宿・歌舞伎町中心に〝夜の街〟の風俗店の従業員と、その客の20代・30代の若い男女の、武漢ウイルス感染者の数が急増した。これが単なる偶然の一致か。それとも密接に関連する事態かが、問題だ。

いったんピークを越えるも

 中国・武漢で感染性の新しい疫病が発生している事実は、昨年の晩秋ごろから一部で知られていたようだ。現に台湾はこの段階で徹底的な対策に踏み出している。一方、共産中国政府が武漢で新型コロナ・ウイルスによる感染症が起きていると認めたのが昨年末ぎりぎり。ヒトヒト感染、つまり感染した人から人にうつった事実をはじめて認めたのは1月9日だった。その武漢に〝帰省〟していた神奈川県在住中国人が日本に帰来して発症し、日本における感染確認者第1号になったのが1月16日だ。その直後の〝春節〟つまり旧正月の連休で、ウイルス原産地の武漢を含む中国各地や、いち早く感染が拡散していた韓国各地から、大量の観光旅行者がウイルスとともに日本に観光にやってきて、多くの感染者を出していったと思われる。

 2月1日には、イギリス船籍でアメリカの旅行会社が傭船するクルーズ船〝ダイヤモンド・プリンセス〟から、香港で下船した乗客のウイルス感染が発覚する。3日には当のクルーズ船が横浜に入港し、多数の日本人を含む多国籍の乗客・乗員から感染者が続々現れて、騒動になった。その騒ぎの渦中で、内憂外患を地でいくように、日本各地で武漢コロナ・ウイルスの感染者が続出し、3月末に急増し4月半ばにはいったんピークに達する。 

 しかし全国レベルでは5月に入って下がりはじめ、5月中旬から1か月間ほどは、東京を含めて底這い状態を続けた。それ以降も底這い状態は、東京とその周辺以外ではそう大きな変化はない。とはいえ、大阪などの大都市では東京に似た様相も見えはじめている。 

 そうした中でとりあえず東京に限定して新感染者の発生状況を追うと、6月中旬から上昇が目立ちはじめた。5月の東京の新感染者は1桁から多くても20人台で推移していたのに、6月15日には48人にハネ上がり、25日には50人のラインを越えたのだ。それ以降はこのラインを下回ることがなく、7月2日に100人を越え、この水準を6日間続けたあと、8日に1日だけ75人に落ちたが、9日には200人を越えて、その状況が4日間続いたあと、100人台に戻った。

なぜ、〝夜の街〟で急増したのか

 数が動いただけでなく、感染の様相も変化した。当初は〝春節〟と〝雪まつり〟が重なり中国人・韓国人の観光客が多かった北海道と、〝雪まつり〟に出掛けてその場で武漢原型ウイルスに感染して帰ってきた国内観光客の地元での散発的発症との、二手に分かれていた。高齢者が中心で、中等症や重症の患者が多かった。それが3月に入って、ヨーロッパに流行が拡大するにつれて、この時期に卒業旅行にいき現地で感染した若者が帰国時に空港で検知されるようになった。その後の日本で感染の主流のウイルスは、武漢原型からヨーロッパ型に変わってきたとされる。

 2月27日には、安倍首相が感染対策として全国の小・中・高校のいっせい休校措置を断行する。3月5日には、かねて〝桜の咲くころ〟に予定されていた習近平・中国国家主席の国賓としての訪日の延期が発表される。3月24日には、夏の東京オリンピック・パラリンピックの1年延期も発表された。

 これに符節を合わせ、また3月13日のトランプ・アメリカ大統領の国家非常事態宣言をはじめとする国際社会の動きもにらみあわせて、各国との出入国の相互停止が進んだ。4月7日には安倍首相が東京・大阪・神奈川など7都府県に非常事態宣言を発出、それに続く全国への拡大に伴い、さまざまな経済活動の抑制・収縮へと事態が急激に動いた。

 一連の経過とそれに対応した感染防止対策が、5月中旬以降の全国的な新規感染者数の底這いに反映されたことは疑う余地がない。それにもかかわらず、なぜ6月になって東京の、それもいわゆる〝夜の街〟で新規感染者が急増し、しかもその3分の2から多い日は4分の3近くが20代・30代の若者に様変わりしたのか。その謎を解く答えが〝1人一律10万円給付〟だったのだ。

目からウロコのインタビュー

 東京の新感染者200人超が4日間続いた7月12日のテレビ朝日の日曜夕方のニュース番組をなんとなく聴いていたら、思わず膝を打つような、衝撃的なインタビューが現れた。集団的感染源と名指されている新宿・歌舞伎町のホスト・クラブ従業員が、彼らの仲間や客筋、さらに同じ業界でホスト・クラブの客になることが多いとされるキャバクラ従業員やそこで遊ぶ客の近況などを、顔は隠しながらも、あけすけに語ったのだ。

 彼のいうところによると、〝夜の街〟が賑わい出したのは明らかに〝1人一律10万円給付〟が実行された反映だ、という。

 〝いまの若者にとって自由になるカネは極めて少ない。そうした中で思ってもいなかった10万円のアブク銭(彼ははっきり〝アブク銭〟といった)が舞い込んできたら、そのカネを使って風俗に(ここでも彼はこう明言した)いってみようと思うのは、若者にとって自然なことでしょう〟。

 その一言で、なるほど、そういうわけだったのか、と目からウロコが落ちたのだ。確かにかなり早い時点から、政府中枢も東京都知事も〝接待を伴う飲食業〟という婉曲・迂遠な表現を使って、この種の業界は感染リスクが高いので利用を自粛するよう、国民に呼びかけていた。また東京での5月末の新規感染者の急増以降、小池都知事はかねがね使ってきた〝夜の街〟という一般的な表現を捨て、〝新宿・歌舞伎町〟〝ホスト・クラブ〟〝20代・30代の若年層〟と具体的に対象を絞り込んだ発言をしていた。タネ明かしをされて見れば、わかるものにはわからなければおかしい、そのものズバリ一歩手前のスレスレの線まで、しゃべっていたのだ。

元手と目当ての〝アブク銭〟

 確かに思いもかけず、額に汗したわけでもない〝アブク銭〟がなんと10万円も降って湧けば、この際キャバクラとやらにいってみよう、ホスト・クラブを覗いて見たい、という若い男女が出てくることは、容易に考えられる。居住地がそう離れていなければ〝アブク銭〟が手に入る時期はほぼ同時だから、学校仲間などが誘い合い団体で〝冒険〟に出向くケースも多かったろう。店の呼び込みもそこを狙って意識的に声をかけただろう。悪銭身につかず、を絵に描くような話だが、もちろんそうした初体験組だけでなく、日ごろからホスト・クラブの常連客であるキャバクラ嬢がコロナ禍でお茶を挽いていたら、〝アブク銭〟を握りしめた遊び慣れない客が押しかけてきて妙にカネ回りがよくなり、久しぶりに遊びにきたとか、その逆もあったはずだ。

 そのあげくコロナ陽性になった若者が少なからず出たのは、必然の報いといわざるをえないが、なにぶん若い。この感染症の特徴とされる、他人に感染させる能力はあるが本人は無症状、というケースも多かったはずだ。この業界には陽性・無症状で働く若者も、陽性になっても店に出続けるのもいる。当局の陽性通知に応答しなかったり、甚だしきは行方をくらましたりして、行動確認や濃厚接触者の追跡が困難になったケースが増えたと報じられ、官房長官の定例会見にも現れた。

 彼らの中にはなぜ自分が陽性になったか、親や周囲に知られたくない、隠したい、と思う〝10万円の若者〟が多かったと、察しがつく。一方ホストやキャバクラ嬢の中には、新規な陽性者とわかってホテルなどに収容されれば、新宿区が休業見舞い金にまた10万円くれるそうだから結構じゃないか、とうそぶくのもいると、こっちは週刊誌が書いた。

 テレビ朝日は前掲のインタビューを翌日の番組でも流している。二度ともコメント抜きで、そこに及び腰の印象は残るし、〝朝日〟一統の常習手段で、いずれアベの〝失政〟をあげつらう布石を打ったつもりだったのか、という気がしないわけでもない。だがそれはそれとして、ともかく際どい機微に触れたナマの声をストレートにオン・エアした蛮勇は、評価できる。〝朝日系〟にしては珍しく〝庶民の悪智恵〟にメスを入れ、メディアとしてあるべき姿勢を示したともいえよう。

 なぜそういうかといえば、新聞記者たちもNHKを含む他のテレビ局員も、取材の過程でこうした話を全然聞いていないはずはなかろう、と思うからだ。それでも記事化やオン・エアを避けたのは、自分たちにも後ろ暗い面があると、内心ビクついていたからに違いない。テレビ朝日はその壁を意図や思惑はともかく、蛮勇で突き抜けたのだ。

繰り返される〝バラ撒き〟

 全国民1人一律10万円給付は、そもそもは安倍首相が打ち出した〝政策〟ではない。安倍は非常事態宣言を発出して経済活動を著しく縮小させた責任者として、事業者・被傭者を問わず、一定期間内にコロナ禍で所得が半減以下になった世帯を対象に、税務資料など厳格な証拠と自己申告を要件として、30万円を上限に現金を給付する施策を決めた。そして2020年度本予算が始動して早々の4月に入って間もなく、2020年度第1次補正予算案を編成、そこに必要予算を計上して閣議決定を経て衆議院に提出した。

 しかしこの施策では、リタイアした年金組には一文にもならない。高齢化が著しい創価学会が会員内部で処遇が極端に分かれるのを問題視して、自家用政党の公明党にねじ込んだのだろうと思われるが、山口代表が総理官邸で安倍と直談判し、返答によっては連立与党から離脱も辞さないと仄めかして、限定的な30万円給付案を取り下げ、自民党の二階幹事長や立憲民主党はじめ野党からも出ていた、全国民を対象に1人一律10万円の現金を給付する案の実現を、強く申し入れた。

 最初に与党入りした小渕内閣の〝地域振興券〟いらい、自民党にバラ撒き政策の要求を繰り返し実現させてきた公明党としては、与党離脱を仄めかせば簡単に要求が通ると思っていたらしい。ところがすでに公明党から出た閣僚も同意して補正予算案を閣議決定し衆議院に提出した安倍は、難色を示す。イヤなら出ていけば、に近い調子だったという。

 真青になった山口は、その足で自民党本部に駆け込み二階幹事長に泣きついた。そこで二階が官邸に赴いて安倍を説得、閣議決定を取り消して第1次補正予算案をいったん衆院から取り下げる、という前代未聞の異常な手続きを踏み、無理矢理組み替えた第1次補正案に押し込んで実現させたのが、国民1人当たり一律現金10万円バラ撒きだ。

 この二階―山口コンビの超愚策を、自民・公明両与党や保守野党の維新だけでなく、立民・国民・共産・社会などの左寄り・左翼野党も双手を挙げて大賛成した。すべての新聞やテレビも大歓迎した、挙国一致、かつての大政翼賛会的〝万歳政治〟状況だ。

議員の給付金使途は闇の中

 ホンの少しアタマを働かせれば、事務費を含めて12兆8803億円の予算を計上したこの〝給付〟のうち、一定の政策的意義を持ちうるのはせいぜい端数程度で、10兆円はまったく無意味なバラ撒きに過ぎないとわかるはずだ。コロナ禍で一般患者の来院が減って大減収になった大学病院の看護師らのボーナスがゼロになる一方で、国や地方の議員・公務員らは給与も減らずボーナスも6月早々に満額支給されている。同様に給与もボーナスも安泰だった民間サラリーマンも多い。彼らやその扶養家族、そして所定額がきちんと出る年金受給者などに、国が現金10万円を給付する理由なんか、どこにもない。

 さすがに安倍首相は、政策の急変に対する不満を示し、歳費やボーナスが出ているのになんたることだと批判が出るのを封じる、両方の意図で、一律10万円バラ撒きを組み入れた第1次補正予算案を出し直す閣議で、閣僚は全員10万円の給付を辞退することを申し合わせた。自民党も全国会議員がこれに倣うと決めた。しかし公明党出身の閣僚が申し合わせに従ったのか、公明党の国会議員がどうしたかは、明らかでない。旧民主系や共・社などの野党議員は、いったん受け取ったうえで寄付なりなんなり有意義な活用法を考えるとしたが、実際にどうしたかはわかったものではない。〝アブク銭〟扱いで遊興に費消した議員はいないとしても、ずるずる費消してしまう議員は出るだろうし、まして彼らの身内や秘書に〝アブク銭〟で遊興したものが1人もいないという保証は、どこにもない。

 それはさておくとしても、現実に〝アブク銭〟を風俗的遊興に費消した若者男女が一定数いたこと、そしてその中から武漢コロナの新規感染者が東京の感染統計の様相を動かすほど出たことは、歴然たる事実だ。そういう形で国民の税金を遊興費にする愚行を実現した政治責任は、決定的な役割を果たした山口―二階コンビはもちろん、結局は彼らの横車に屈した安倍首相や麻生財務相にも、大政翼賛会式全会一致で議決・成立させた与野党国会議員にも、存在する。同様にこの愚策を批判するどころか、金額が少ないの、申請手続きが繁雑だの、支給が遅いのと、テレビでわめき続けた、もともとニュースを扱ううえで一片の素養も見識もないテレビの〝ニュース芸人〟や、視聴率最優先のテレビが煽り立てる世間の空気に追随した新聞にも、報道・言論責任が厳しく問われなければなるまい。

黙し続ける罪

 本誌の読者は先刻ご承知のように、筆者は6月号の本欄で、孟子と福沢諭吉の言を引いて、この1人一律10万円現金バラ撒き策がいかに愚劣か、いかに国民の矜持・品性を軽んじたものかを論じ、自分は断じて〝盗泉の水〟は汲まない、10万円の請求手続きは愚妻ともども拒否する、と明らかにした。憚りながら日本の言論人・知識人で、同様に断言した論者が他に存在するとは、寡聞にして知らない。学者にも、いるとは聞かない。

 もちろん内心そう思っていて、筆者と同様に自らの信念に基づき、自恃を持って〝10万円〟受給の手続きをしなかった人物は、必ずしも少なくないと思う。しかしそれならなぜ彼らは沈黙していたのか。わざわざ触れて回ることでもなかろう、といわれればそういう気もしないものでもないが、久しく続く日本の財政危機の中で、国の財政資金の一部が〝アブク銭〟として風俗に流れた事実に関して知ったいまも、黙り続けていいのか。それはいかにも情けなくはないか。

 〝アブク銭〟として風俗に流れたのは論外として、〝降って湧いた不要不急のカネ〟として無意味に費消したか、いつかはやってくる非常事態に備えてタンスの底に蔵ったか、いずれにしても〝生きたカネ〟として使われたとは到底思えない〝10兆円〟を、例えば暴れ川対策に回していれば、ことしの九州・中国地方の豪雨被災には間に合わないとしても、いつかは有意義になりえたはずだ。

 そういえば、治水の責任を負う国土交通相は公明党所属だ。そもそもこの党は、与党入りした当初は厚労相を指定ポストに固執していた。しかし高齢化が進行して社会保障給付を抑えざるをえなくなり、社会保険料や窓口負担金は増える一方になって、厚労相は〝いい顔〟ばかりしていられる気楽なポストではなくなった。そこで彼らは、厚労相から国交相へ指定ポストを移動させた。

 〝オイシイ大臣ポスト〟の提供を連立の条件にしてきたといわれても仕方ない姿だが、その結果厚労・国交行政で、なにか公明党でなければという独自の実績があがったか。遺憾ながら筆者にその記憶はない。逆に、北九州・広島・前回の熊本・昨年の千葉を中心とした関東平野東南部の台風、そして今回の球磨川・筑後川・江の川など広範囲で深刻な河川氾濫など、ここ数年間に公明党所属の国交相のもとで連続して発生した大きな水害被害が、大臣にそこそこの施策的な企画・指導力があり、それなりの予算を獲得してくる力量があったら、たとえ地球温暖化だ、異常気象の連続だとはいえ、多少は被害を抑止・軽減できたのではないか、という思いはある。

 与党離脱という思い切ったカードをちらつかせ、12兆8000億円バラ撒きを安倍首相に迫った山口公明党代表に、その予算が歴代の〝わが党大臣〟がトップに座る役所に配分されていたらどんなに国民のためになったか、と思う反省心はないのか。そんなことよりも、どこかから強く求められた1人一律10万円のバラ撒きを実現できた達成感に、いまも浸っているのか。その心情を問いたい思いは、多くの国民にあるのではないか。

連立組み換えを検討すべき時

 武漢コロナの感染症に新罹患者が増加する中で、感染の中心地から地方に禍を拡散しかねないとだれもが危惧する、GoToトラベル・キャンペーンなるピント外れの旅行誘導策の責任者も、公明党が内閣に送り出した国交相だ。ところがタイミングが悪すぎてマスコミ世論から批判が続出すると、苦戦する同志がヘドモド弁解しているのを横目に、司令官の山口代表はテレビ・カメラの前で、まるでヒョーロンカになったような口調で、延期したらどうか、といった。結局〝専門家〟が助け舟を出す形で、東京発着のケースだけを除外してなんとか収拾したが、これは上が上なら下も下、といわざるをえまい。 

 二階―山口コンビには、このところ迷走が目立つ。武漢コロナでとりあえず無期延期になった習近平・中国国家主席の国賓訪日について、自民党の外交部会・外交調査会は政府に中止の検討を求めた。複数の世論調査結果を見ても、圧倒的に反対が多い。しかしかねがね親中というより媚中の定評がある二階―山口コンビは、早期実現論に固執している。

 イージス・アショアの配備見合わせに伴う敵基地先制攻撃問題でも、二階幹事長はともかく、山口代表の公明党は反対のようだ。だが最新のNHKの世論調査では、賛否ほぼ拮抗する状態になっている。数年前までは論議の余地なく反対が多かったことを考えると、北朝鮮の核兵器とミサイルの脅威が急速に高まることに対する国民世論の反応が、敏感になっているようだし、その対策についての国民の理解も、進んでいるようだ。世論調査では〝どちらでもない〟という回答になりがちな、いわゆる〝声なき声〟が是認に傾いている観もある。公明党が社民党と同様の棒を呑んだような姿勢で固まっていていいのかどうか、自問自答すべき段階にきているだろう。

 長期政権も終末に近づきつつある安倍首相が、9条改憲までは無理としてもその手掛かりくらいはレガシーとして残したいと思うなら、本音は改憲反対の公明党と距離を置き、改憲政党である維新との連立組み替えを、真剣に考えるべき段階にきているのかもしれない。次期総選挙で公明・維新の金城湯池の大阪で両者がガチンコ対決する方向になれば、吉村府知事―松井大阪市長の人気が定着したいま、維新が公明の議席を食い、差し引き勘定で現在は公明29対維新10と水があいている両者の衆議院の議席差を、逆転は困難でも対等の線に持ち込む可能性はある。維新に無所属の改憲指向勢力を加えれば、衆院で3分の2を超す議席の組み替えの展望も立たないとは限らない。自公連立体制は、いまや必ずしも盤石とはいえないのではないか。

(月刊『時評』2020年9月号掲載)