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俵孝太郎「一戦後人の発想」【第105回】

アナログ人間が考えるデジタル行政~冷静な費用対効果の検証必須、利権・詐欺の横行に厳正対処~

 突発的に誕生したスガ政権は全国的なデジタル化の徹底を掲げたが、費用対効果など検証すべき点は数多い。まして大挙発生が想定されるデジタル犯罪への厳正な対応が後手に回るようでは、デジタル社会の到来など望むべくもない。

 7年8か月続いた安倍晋三首相が突然異常な形で退陣し、それまでポスト安倍の候補者に名前がなかった菅義偉官房長官が突如浮上して、下馬評が高かったライバルたちを一蹴する異様な経過で、後継の首相になった。

 菅首相と書けば、同じ漢字1文字だから、前々々代の超無能民主党政権の首相で、下野後にいったん落選し、その後に比例復活という情けない姿で返り咲いた菅直人と、カン違いしかねない。とりわけ自民・旧民主政権を比較して論ずるときは、ややこしいことになる。

 そこで本稿では菅=カンとの混乱を避けるべくスガ首相・スガ内閣と表記するが、そのスガ首相が新内閣の目玉政策に、中央・地方、官・民、企業や団体から個人に及ぶデジタル化の徹底を掲げ、いままでは伴食大臣の兼務ポストとして名ばかりの存在だったIT担当大臣に代えて、専門に特化した専任のデジタル担当大臣ポストを新設、自民党でこの分野の専門家とされる平井卓也を起用した。

政善行政が招いた種々の犯罪

 それと時期を同じくして、銀行預金から一時的に小口の資金を電子式仮装財布に移し、チープな支払いのキャッシュレス決済に充てる、当節流行の〝某々ペイ〟と称する仕組みをペテン師どもが食い物にしていた事実が、続々発覚した。当初の報道では、染み込んだ官業体質が容易に抜けず脇が甘いNTTドコモやゆうちょ銀行、そして資金面の弱さを反映して防備が脆弱な地方銀行の話と思われていたが、仮想財布運営会社の側にも金融機関側にも大手が相次いで登場し、被害も底なしの様相を呈している。それだけでなく、この種の犯罪被害は実はかなり前から頻発していたのに、金融機関側が被害者の訴えにマトモに対応せず、被害を蒙った預金者を泣き寝入りさせてきた悪辣さも表面化している。

 コロナ禍で減収を余儀なくされた中小企業者や個人事業主の救済策として設けられた国の持続化給付金制度を典型とする、いくつものバラ撒き給付型施策に関する虚偽請求の受給詐欺も、全国各地で発覚した。仮にも国民の税金を個人にバラ撒くのだから、申請書類の提出と証明資料の添付を義務づけたうえで当局が慎重かつ厳正に審査し、給付の可否を決定すべきだ。それなのにデジタル化で手続きを簡素・簡略化したのが敗因で、犯罪を誘引・多発させる結果を招いた。手続きが繁雑だ、給付が遅い、とテレビのワイドショーの〝ニュース芸人〟が騒ぎ、与党の一角に蝟集するバラ撒き専門の党幹部・政党や、無責任野党が大合唱で金切り声をあげる中で、安易な性善説行政に走ったのが間違いだった。

 こうした犯罪とは別次元の問題だが、スガ内閣発足の翌月1日、今年度下半期相場初日に、東京・名古屋・福岡・札幌の証券取引所がシステム・トラブルで終日取引不能になるという非常事態が発生した。NTTでもシステムの大故障が起きた。おマケというには余りに無様な失態だが、デジタル庁の新設とこうしたさまざまな問題の爆発的噴出という皮肉な対比は、一見したところ不運な偶然のように見えるとしても、必ずしもそうとばかりとはいえない。一方が原因で他方がその結果であり、その結果が次の新しい問題の原因となって別の結果を生むという、悪循環を重ねて問題を大きくしていると思われる。

初期段階での執筆電子化

 予めお断りするが、筆者はITやデジタルにはまったくの門外漢だ。だれもがITと無縁で暮らしているとはいえない時代だとはいえ、そしてITやデジタルが文房具の最新現代版とすればそれと密接に係わる職業に70年近くも携わってきた人間とはいえ、いまもパソコンを持っていない。電話も固定電話とガラケーだけでスマホはない。活字とは縁が切れないがSNSなどとは完全に無縁だ。いまどき少なくなった古風なアナログ人間と思われても、なんの異存もない。

 したがって本稿の記述で関連用語を不適切に使ったり、甚だしい場合は見当違いの議論に走ったりすることも、ないとも限るまい。その点も重ねて予めご容赦願いたいが、とはいえ筆者は、1960年台前半に日本の池田勇人、アメリカのケネディ、フランスのドゴールの各政権に、イギリスの王立研究所や西ドイツの経団連が、1985年を共通のターゲットに、〝20年後の世界〟を予測した長期の経済・社会計画の策定競争を始めた時期に、世界的に大流行した〝未来学〟を提唱・研究した学者・評論家・経済人・官庁エコノミスト・ジャーナリストの一隅にいて、それなりの新聞記事や週刊誌連載も書いていた。小松左京や加藤秀俊など、先端を走る顔触れが使い始めた次くらいに、当時400万円、中堅サラリーマンの年収の3年分ほどしていたワープロを7年の分割払いで備え、執筆作業を電子化していたのだ。

 いらい半世紀を超える歳月に機器を買い替えること3回。いまも本稿はじめ執筆にワープロを使っている。その原稿をいまは骨董品と化して入手困難だが、手元に十分ストックがあるフロッピーディスクに収録・保存している。前にも書いたと思うが、フロッピーに打ち込んだ原稿を読み取り、メール送信が可能なコンピュータ言語のワードに変換するソフトは、マイクロソフトのウィンドウズ6に対応するパソコンまでには組み込まれていたが、7以降の機種には時代遅れだとされ、ついていない。ウィンドウズが累次バージョンアップして2桁の号数になったいまとなっては、フロッピーによる出稿に対応できる出版社・印刷所は、ほとんどない。

 そこで筆者は中古市場でウィンドウズ6対応のパソコンを探して時評社に預け、他社の原稿も1枚のフロッピーにファイルして編集者に渡し、時評社で本稿をワードに変換して編集作業を進めるとともに、他の出版社にもそれぞれワードに変換した原稿をメール送信してもらう手順で、執筆を続けている。実はこの点がデジタル化の泣きどころなのだ。

日常的な、無限の需要循環

 半世紀前はワープロは最先端のデジタル文房具で、それに対応するシステムが完璧にできていた。当初に導入した機器の分割払いの年季が明け、高機能の新型に買い替えたころは、価格は現金一括払いなら当初の7年分割の1割ほどに下がっていたし、駆け出しのパソコンのワープロ機能などは歯牙にもかけぬ使い易さで、関連機器が揃っていた。

 2代目、3代目を経ていまは4代目を使っているが、この代替わりから間もなく、ワープロからコードをつないでフロッピー所収の原稿を読み出し、直接プリントアウトできたプリンターが壊れた。パソコンの普及・進化に伴い関連機器もワープロ本体とともに生産中止になり、在庫も切れ、部品がなくて修理も不可能という。システムが完全に崩壊・絶滅してしまったわけだが、ワープロはもちろんパソコンでさえ、旧バージョンの基本ソフトを搭載した年代物は最新機器との互換性がなくなり、無用の長物と化して更新・買い替えを余儀なくされている。いうまでもなく、そこに無限の需要循環を仕組んだデジタル業界の商策があるわけで、こうした例は日常生活のあちこちに見られる。

 テープに収録し保存した音声や映像を、いまどきの機器で視聴・保存するためにCD・DVDに転写しようと思っても、そのための機器は大昔に消えている、レーザーディスクのオペラやコンサートを見る再生機が壊れたが買い替えも修理も不可能だから、ソフトをDVDやコンピュータ対応のメモリーにダビングしようとしても困難だ。こうした様相はあらゆるデジタル分野で日常茶飯事だ。

不便も伴うのがデジタル

 スガ首相は各省庁・各部局・各関係機関をはじめ、全国47都道府県や1800の基幹自治体つまり区市町村のコンピュータ・システムが統一されておらず、非能率だしなによりも情報処理の迅速さや正確さに欠けるとして、システムの一元化をデジタル化推進の第一歩としたい考えのようだ。しかしスガ首相に、それがどういうことなのか、どれだけ厖大な予算を要する作業なのか、的確にわかっているかどうかは、極めて疑わしい。

 中央・地方のコンピュータが統一性に欠けているのは、導入時期が早いか遅いか、ばらばらだったからだ。新しくコンピュータ・システムを導入するとき、統一性を確保するため先発組が整備した古い機種を採用するバカはいない。当然最新式を採用するが、それでは導入時期に応じて基本ソフトも機能も違ってくる。必ずしもプラスだけが積み重なるとは限らず、不便も伴うのがデジタルだ。

 かなりの歳月、ウィンドウズ6対応機まではアウトだが、7以降の対応機器には、コンピュータ・ウイルスの侵入防衛ソフトのサービスを保証していた。しかし最近7対応機も停止され、この機種を使っている役所や企業などで、秘密保持のため機器の全面更新が不可避だと騒ぎになった。国と地方のシステムを完全に統一すれば、どれほどの予算が必要か、どれだけの数のまだ真新しい機器を更新しなければならないか、想像もつかない。

 当然ながら、ITデジタルはまだ発展段階にあるのだから、新しいソフトも続々出てくるだろう。追加機能もたくさん出現するに違いない。仮にスガ内閣がいっせいに機種統一を断行すれば、耐用期限が切れて新機種に切り替えの時期も、ほぼ同じにならざるをえない。それに対応するのは、予算的にも供給面でも、そう生易しいことではなかろう。

混乱の背景にあるもの

 デジタル化に改めて国を挙げて取り組まなければならなくなった大きな理由は、コロナ対策の混乱が余りにもひどかったからだとされている。混乱というが、一つには陽性者・発症者の情報処理がモタついたこと、二つ目には全国民に一律10万円を給付する究極のバラ撒き策でモメたからだ。前者はつまるところ連絡の不手際の産物だし、後者に至っては10万円に目が眩んだ欲呆け老人が、手慣れた文書申請をしてしばらく待てばいいのに一刻も早く現ナマを握りたいと焦り、慣れぬスマホでメール申請に殺到したからだ。

 それとは別の次元で、韓国・中国・シンガポールなどはうまくやっているのに日本が混乱続きなのはメンツに拘わる、と政治家も役人もマスコミも思っているのではないか、という面もある。しかしそんなこと、気にするには及ばない。その理由はゴマンとある。

 中国やシンガポールなどは多言語国家だし文字も多様だ。中国の辺境にはまだ文盲も多いだろう。韓国のハングルは全文カナ書きのようなもので技術情報を伝えるのには向いていない。だが絵記号に頼ってボタンを押すだけなら、文字が読めなくても簡単な図解を見て可能だ。それに中国も韓国も、デジタル化が進んでいるのはたぶん都市だけで地方の実情がどうかはわからない。混乱以前の状態だが当局が実態を隠して表面化させないことも考えられる。見捨てたままなのかもしれない。日本のマスコミは怠け者で臆病だから、相手方が隠したがる実態を掘り起こして伝える努力など、ハナから放棄してヤバい取材領域には立ち入らない。これでは日本まで的確な実情が伝えられているわけがない。

後進の優位性が発揮された例

 発展段階の差もある。日本は経済も社会も行政も漸進的に発展したから、省庁や行政分野によっても、もちろん企業や個人間でも、IT導入や利用の進捗度にバラつきがある。それが運用のムラにつながる。一方で国民の識字率が完璧で文書の理解力も高いから、長い歳月をかけて定着した書式による手続きなら、正しく理解して適切に対応できる。パソコンなどという新奇な機械に慣れさせられるのは大迷惑だという国民は少なくない。

 アフリカで地中海沿いのエジプトやモロッコなど古い文化を持つ国を尻目に、最近まで部族抗争・内乱に耽っていた中央アフリカで一挙にデジタル化で急成長する国が出ているという。後進国ほど一挙に、一律に進みやすい面があるわけで、それと共通の要因が日本と中・韓との間にもあるのではないか。

 それに中国にも韓国にも徴兵制がある。いまの軍隊はデジタルが支配する世界だ。ここで基礎が習得できるし、そもそも軍隊で生きるためには事前にデジタル慣れする必要がある。軍隊のない、もちろん徴兵もない日本では、デジタル化へのアプローチ機会は、せいぜいゲームくらいだ。ここに差がつく要素があるのだとしたら、それは、ケンポー9条のイダイな成果だ、というほかない。

 基本的にはアナログ人間の筆者でも、当然ながらデジタル化を推進する必要性がまったくないとは考えない。官公署が連携を密にして所管業務を一元的に処理し、データを漏れなく集約して必要な解析・分析を加えて行政の向上に充てるため、IT技術を効率的に駆使するのは当然のことだ。ただしその場合には、財政負担、費用対効果の検証に最善を期すとともに、なににもまして、ワイファイ環境の整備、公的・私的の機器の調達と保守・保全、さらに絶え間なき運用などに関して、断じて利権や不正、さらに日本を敵視する外国勢力の容喙をいっさい許さないという、厳重な監視が不可欠になる。

デジタル犯罪に厳正な対処を

 さらにデジタルは、軍事スパイや産業スパイ、エネルギーや交通・金融のインフラの根幹を破壊する大規模なテロから、チンケなコソ泥級の窃盗・詐欺まで、すべての種類、あらゆる犯罪の手段でもある。それに対処するための特別な法制と、それを完全・厳格に執行する監視・取り締まり態勢が不可欠だ。その覚悟が、少なくともいまのところはスガ首相からも平井大臣からも見えてこない。これはいかがなものか。

 デジタルは施設整備にも運用面にも、外国の公権力や企業の介入がありうる世界だ。外交安保などの国際情報からハード・ソフト両面の技術情報まで、官民の情報に入り込む外国の策動もある。国内でそれに同調する買弁的な存在もいるだろう。外国の国営・民間企業が絡む利権もあるし、もちろんそれに国内で迎合する買弁的存在も官民で発生し得る。そうしたことに、現行法制で十分に対応できるとは思えない。これらの事犯に対して法を整備し、国家犯罪的な犯行に対しては首魁・首謀者には長期の懲役刑はもちろん、犯行に関して外国の官民機関や企業からの資金提供や報奨金などがあるとすれば、それらを没収したうえで罰金を併課することも必要だ。配下の共犯はもちろん不作為・不注意で巻き込まれた関与者にも厳しい対応が欠かせない。

 詐欺・盗犯など単純な財産犯でも、国内の犯罪集団だけでなく、海を越えた外国の悪党の手が伸びてくることも少なくないのが、デジタル犯罪の特質だ。刑法の詐欺罪とは別途の特別法で厳しく対処すべきだ。模倣性の高い犯罪分野だから、内外から襲ってくるあらゆる態様の不正や詐欺などに関して、主犯・犯行の中核人物はもちろん、末端の実行犯も出来心で関与したものも漏れなく検挙し、利得金に数倍する罰金を課し、犯情によっては実刑に処して、抑止効果を高める必要がある。すべきだ。そうしなければ、デジタル悪用の犯罪の根絶など、まったく望めまい。

マイナンバーカード一元化への疑問

 話題を戻して、現に進められつつあるマイナンバーカードを使った個人情報一元化は、疑問点だらけといわざるを得ない。国民のIDカードとして氏名・性別・生年月日・国籍の4つの基本データを1枚に入れ、公的身分証明に使うのは賛成だ。そこに本籍地・現住所を書き加え、顔写真を収載して、カードを提示すれば身近な役所でパスポートを入手できるようにするのも、問題なかろう。

 しかし自動車運転免許はじめ各種の資格・免許や社会保険の機能までも1枚のカードに入れることには、問題がある。自動車免許はカードに入れるが医師や教師や弁護士の資格証明は入れない、というのは職業差別につながり、穏当でない。まして社会保険や税にかかる個人データをカード1枚に収めれば、深刻な被害につながりうる。マイナンバーカードに健康保険証も介護保険証も搭載するからこれ1枚あれば複数の保険証を持ち歩く必要がなくなる、というが、それなら狙いをつけた相手のマイナンバーを入手して社会保険のコンピュータに侵入すれば、彼がかかった医療機関がわかる。その医療機関のコンピュータに侵入して電子カルテにアクセスすれば、病歴も病状もわかる。そんなことはありえない、と関係者はいうだろうが、たった利用限度30万円のチープな〝某々ペイ〟に侵入して零細預金者のカネを盗む悪漢が、現にこれほど多数いるのだ。仮にも銀行でござい、決済機関でござい、という業者のデジタル・システムが、病院や開業医のそれより劣るとは、思えない。それらが易々と突破されているのに、医療や介護の個人情報が守られると思っているのなら、どうかしている。

 税金申告もカード1枚でできることになれば、税金を引き落とす銀行の口座番号をはじめ、所得・資産の個人情報が丸裸にされるリスクが高まる。たかがカード1枚を落としたら、考えられるリスクに関係するすべての記号・番号を変更するために、多くの関係先を駆け回らなければならないことにもなる。このような難儀な仕組みを推進しようと考える、政治家や役人の頭の中身は、理解できない。たいていの日本国民は住民基本台帳カードで懲りごりしている。せっかくつくってもなんの役にも立たなかった。転居手続きや印鑑証明を取るときに便利だというが、一方でハンコ廃止を叫ぶのだから、まるで論外だ。

 ほとんどジョーダンのようなデジタル仕立ての思いつきが、行政各分野で余りにも目立ちすぎる。スマホの位置情報機能を使ったコロナ陽性者との接触に関して警告情報を伝える、ココアという俗称のシステムがあるが、係わりたくないとして、スマホ登録をしない所持者が多い。さらに警告情報のネタ元になる、ワタシは陽性になりました、と運営機関に連絡する登録者は、皆無に等しい状態で、全く機能しておらず、誤作動ばかりが目立つという。これでは成果はもちろん、マトモな普及も期待できまい。

 医療機関と現場行政を結ぶコロナ患者情報の共有システムの、ハーシスなるものもできたが、データ入力に手間がかかりすぎるという理由で、対象機関の半数以上がシステムにつながっていないという。医療機関はもちろん、行政の現場もコロナ禍で多忙を極めている。そんなものを相手にしているヒマなんかない、というのが本音だろう。

生活目線からの4つの注文

 スガ内閣のデジタル化推進政策に、とりあえずごくフツーの国民の生活目線から注文をつけるとすれば、次の諸点ではないか。

 第一に、企業のテレビCMも同様だが、新聞やテレビの行政告知で、くわしくはホームページで、とか、検索を、とか、ダウンロードして、とかいうケースが多いのは問題だ。パソコンもスマホも持たない世帯は、全体の四割にのぼるという。彼らを無視するのは明白に差別だし、広報としても落第だ。

 第二に、前述のココアをはじめとするチャチなデジタル利用企画は、ナンセンスだ、あんなもの、税金使ってやる値打ちはない。むしろデジタルの社会的評価を落とすだけだ。

 第三に、〝お得〟で釣るな、といいたい。一律10万円バラ撒きのネット手続きが諸悪の筆頭だが、マイナポイントといい、GoToナントカの申し込みやガイダンスといい、ちっぽけなゼニ勘定をエサにデジタル化に関心を持たせようとする、国民をナメているとしか思えない、品位もヘチマもない仕掛けが、行政や商法に横行しすぎる。仕掛けるほうも、エサに飛びつくほうも、どうかしている。そろそろ正気に戻ってはどうか。

 そして第四に、繰り返しになるが、デジタルが舞台のあらゆる犯罪に断固対処する体制確立は緊急課題だ。それなしにはデジタル社会など成り立ちえないという覚悟を、スガ首相や平井大臣は固くキモに銘じるべきだ。

(月刊『時評』2020年11月号掲載)