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俵孝太郎「一戦後人の発想」【第107回】

アメリカの〝政変〟が意味するもの ソビエト国家崩壊 30 年の期に

 東西冷戦が崩壊し、民主主義と市場経済の西側が勝利してから30年。にもかかわらずこの間、市場経済は停滞し、中国の一党独裁体制は世界に圧力を強めている。日本のメディアではバイデン米大統領に好感を示す論調が広がっているが、過去の民主党政権以上に左傾化が進むおそれがある。

西側が勝利した1991年

 今年2021年は、ソビエト国家が崩壊して満30年の節目の年に当たる。

 東西冷戦の中で、スプートニクが象徴する軍事技術はともかく、民生・生産技術では欧米に大きく後れを取っているソビエトを、フルシチョフに代わって1964年から率いてきたブレジネフが、1982年11月に死亡した。後継のミニ・スターリニストのアンドロポフ、老いぼれ党官僚のチェルネンコは、二代続けて短期間の在任で死亡する。体制の混迷感が深まる中で、85年3月に若手開明派のゴルバチョフが書記長に就任し、とりあえずブレジネフが始めたアフガン侵攻を収拾して内政建て直しに専念しようとした。

ところが86年4月に、チェルノブイリの原発事故が突発する。この影響もあって、ペレストロイカ(改革)路線を打ち出したものの、まったく成果があがらない。東側の盟主としての権威失墜が募る中で、89年春からポーランドを皮切りにルーマニア、チェコ、東ドイツなどで共産主義権力に対する民衆の抵抗が続出し、政変に発展した。そのあげく11月には長く冷戦の象徴だった〝ベルリンの壁〟が破壊され、〝壁〟を越えた東側諸国の民衆大移動、より端的にいえば共産党支配からの大脱走に発展する。

 そうした政治的地殻変動を受けて、ゴルバチョフは12月に急遽アメリカのレーガン大統領とマルタ島で会談し、冷戦の平和的解決と新しい情勢に応じた世界秩序のあり方について、話し合った。それを反映して90年2月に、ソビエト共産党が一党独裁の放棄を宣言する。3月には第2次世界大戦中にナチス・ドイツに滅ぼされ、戦後はソビエト領に組み込まれていたバルト3国が、それぞれ独立を回復する。12月には、東ドイツ共産主義政権の崩壊を受けて、東が西に丸ごと吸収される形でドイツ統一が実現した。

 91年8月にソビエト共産党内の保守派による反ゴルバチョフ・クーデターが起きるが、たちまち失敗に終わる。これが最後のあがきとなってソビエト共産党は解体し、11月にはソビエト国家体制が解消。連邦を構成していた諸民族による共和国がそれぞれ独立し、ロシアを中心とする独立国家共同体という新しい体制に移行することになる。第2次世界大戦終結後の間もない時期から半世紀を超える歳月、世界に影を落としてきたソビエトとアメリカをそれぞれ盟主とする東西冷戦は、こうして共産主義・社会主義を奉ずる東側総崩れの中で、政治は民主主義・経済は市場経済を基盤とする、西側の勝利に終わった。

民主党の成り立ちと本質

 それから30年を経たとはいえ、当時の記憶もまだ残る今年、アメリカで大統領が交替する巡り合わせになった。〝アメリカ・ファースト〟を掲げて、ソビエトに代わる共産主義・社会主義陣営の頭目となった中国に対して、厳しい対決姿勢をとってきた現職の共和党のトランプが、民主党のバイデンと、両候補ともに史上空前の7000万票を超す得票を記録する大激戦の末、再選叶わず一期限りの退陣を余儀なくされたのだ。

 代わってバイデンが大統領職に就くが、民主党はもともとワスプ=ホワイト・アングロサクソン・プロテスタントの党である共和党には近寄りにくい、さまざまな民族、多様な宗教的背景、多彩な業種の人たちが集まってできた、連合勢力だ。メーデーがシカゴの労働者から
始まった歴史が示すように、宮廷を頂点とする階層社会のヨーロッパから逃げ出した人たちがつくったアメリカは、社会主義との親和性が必ずしも薄くはない。とりわけ寄り合い世帯で都市型政党の民主党は、常に共和党の左側に位置する。ほぼ1世紀前の大恐慌から立ち直る過程で、民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領は政権の一角に、社会保障制度を導入する必要もあって、アメリカ共産党の秘密党員が潜むニューディール左派と呼ばれる勢力を取り込んだ。彼らの一部は正体がバレてワシントンを追われた後、伝手を頼ってGHQ=占領軍総司令部に文官として潜り込んで敗戦日本に進駐し、新しい日本国憲法の制定過程や地方自治・警察制度・教育学術の〝改革〟など多くの局面に、いまも続く左翼色濃厚な〝占領遺制〟を残した。

 その事情を日本共産党や立憲民主党などの左翼野党や左傾〝学者〟や偏向マスコミなどが、無知・不勉強で知らないのか、忘れたのか、自分たちが〝進駐軍のポチ〟を務めていたとは思いもよらずに、護憲から日本弱体化策支持、学術会議擁護まで、旧慣墨守に耽っているのは、呆れ返って苦笑するしかない。

 閑話休題、アメリカ民主党は伝統的に清国―中華民国、そして現在の中華人民共和国・共産中国に至る大陸中国と、移民が絡み、政治上・外交上のさまざまな取引を窺わせる裏の動きも絡んで、共和党とは比較にならないほど濃密な関係を続けてきた。その分日本との距離は離れていたわけだ。

 戦後の日米関係を見ても、岸(信介)・アイク(アイゼンハワー)、佐藤(栄作)・ニクソン、ロン(レーガン)・ヤス(中曽根康弘)、そしてアベ(安倍晋三)・トラ(トランプ)と、世界に広く知られた日米トップの強い友人関係はすべて共和党政権下の話だ。小泉純一郎がプレスリーの遺宅で子ブッシュと、腰を振ってロックン・ロールを歌い踊りあったこともあった。

 一方、クリントン夫妻の共産中国とのさまざまな癒着情報は、しばしば世界のマスコミの表裏を流れた。オバマが就任早々に妻子を春休み旅行の名目で北京に行かせたときも、新任挨拶だとか、選挙の際の陰の支援に対する領収書の発行だとか、さまざまなうがった風説が乱れ飛んだものだ。

かつてない露骨な左傾

 その民主党が、米中新冷戦が騒がれるさなかに、そして中国の武漢を発生源とする新型ウイルスによる呼吸器感染症が、発生当初の中国政府の情報秘匿が致命的に作用して世界中に大流行し、こともあろうに現にアメリカが世界最大数の感染者・死者を出している状況のもとで、政権の座に返り咲いたのだ。それも4年間の〝トランプ統治〟の反動もあるとはいえ、党内に公然と社会民主主義者を自称するグループが蟠居したり、左派の黒人女性を副大統領候補に置かざるをえなかったりと、かつてなかったほど党内が露骨に左傾する中で大統領になったのだ。

 それだけではない。バイデンはアメリカ史上最高齢の大統領就任であり、認知症を患っていると半ば公然と噂されている。4年の任期を全うできる保証は、必ずしもない。仮にバイデンが任期途中に死亡したり、廃疾状態に陥ったりすれば、連邦憲法の規定により左派の女性副大統領・ハリスが大統領になる。その様相の奇妙さというか異様さというか、恐ろしさは、容易な話ではないとしかいいようがなかろう。

 世界の政治は東西冷戦終結後の30年の間も、独裁・強権政治による国と、自由・民主主義の政治に立つ国との、二極対立の構造を免れなかった。一方にはソビエト崩壊で揺らいだはずのレーニン・スターリン主義流の統治を、アジア型絶対権威主義的独裁と呼ばれる、特定個人を頭目に一党独裁をより強化した形で続ける、共産中国や北朝鮮が存在を続ける。仮に文在寅が5年の任期が切れた後も傀儡を立てて大統領職を維持させ、極左・反民主主義の路線を継続させた上で、5年後に再び大統領に復帰する、ロシアでプーチンがメドベージェフとの間で展開したキャッチ・ボール方式を使って支配を永続させることに成功すれば、韓国もいずれアジア型絶対権威主義的独裁に移行することになりかねまい。他にもカンボジアのような中国べったりの同じ体質の発展途上国が、いくつかある。

 東西の中間的存在には、ベネズエラやボリビア、アルゼンチンなどラテン・アメリカで目立つ、腐敗した右派勢力と腐敗した左翼勢力の間で政権が行きつ戻りつを重ねるタイプもある。アフリカには、軍部と左翼勢力が古くからの部族抗争を引きずった支配権争奪と利権争いを複合させた、振り子型の権力交替を繰り返す国が多い。

30年の停滞と下降

 冷戦のタガが緩んだために〝国のかたち〟が複雑・多様化した、といわざるをえないのだが、その一方で東側を圧倒したはずの西側先進国では、30年の間にさまざまな矛盾が噴出し、全体として下降線を辿り続けた印象が濃い。なによりこの間に強みであるはずの自由経済が、低賃金労働力を武器とする〝世界の製造工場〟から成長して巨額の資金を擁し、それを発展途上国に投ずるだけでなく、先進市場でも動かすようになった共産中国の躍進にひきかえ、欧米から日本までが、全体として停滞を続けた点は否定できない。この時期に大きく飛躍したコンピュータの利用技術・高度通信技術の開発と、それを組み合わせた新技術の展開でも、西側は中国の勢いに押されて、見劣りする姿になり果てた。

 政治・社会的にも、ソビエトが強力だった70年代に彼らのお先棒を担いで〝怒れる若者〟を気取ったり、〝ゲバ棒〟を振り回したりしていた世代が、この30年の間、中堅から〝実権派〟として働き盛りの時期にあったという、不運と笑ってばかりいられない巡り合わせが悪く作用した。彼ら、ことに大衆化状況を進めるメディアに潜むこの世代は、若いころに染み込んだ左翼テイストが抜けず、それを口当たりよく、より陰険かつ狡猾で、欺瞞的にした形で社会に浸透させる〝工作〟を、テレビを中心に幅広く展開し続けた。

 筆者がかねて本稿などで述べ続けてきたことだが、廃れたはずの左翼思想は、西側社会で、生き延びるどころか武漢ウイルスと同様に変異し、感染力を強めてさえいる。敗戦直後の日本でエロ雑誌の誌名として広く知られた平仮名書きの〝りべらる〟とは大違いで、いまや〝リベラル〟は、共産主義者ないしそのシンパの、世を忍ぶ仮の姿と見て間違いなくなった。〝グローバリズム〟は、ユダヤ教徒の勢力を世界の深層に張り巡らせようとしたシオニズムや、それと同根の宗教を道具に収奪先と狙いをつけた未開地の原住民の〝教化〟を図ったカトリシズム、そして彼ら〝先達〟の手法を換骨奪胎した共産主義インターナショナリズムの、現代的粉飾版といえる。

隠れ左翼のいまの〝武器〟

 統一と団結を金看板に、多少とも違う意見を持ったり異議を唱えたりする相手に〝分裂主義〟〝分派〟とレッテルを張りつけ罵り排除するのは、共産主義者の常套手段だ。いまの世界には〝分断〟を憂え〝融合〟を唱える風潮が流行しているが、こう主張していかにも相手方が分裂を煽っているようにアピールする側が、実は自らの立場を基準に他者を非難し、〝分断〟されていると称して被害者を装いながら、自分たちのドグマを基準に思想統一・行動統制の実現を企んでいる。その姿は、レーニン・スターリン・毛沢東・習近平一味の新型というほかなかろう。
 
 演技をこらして本音を隠し、西側で執念深く〝思想工作〟を続ける、〝市民集団〟を名乗る新型左翼は、〝言論・表現の自由〟を防壁に大衆世論に支配的な影響を及ぼし続けてきた。共産主義者は党綱領や決議、スターリンの〝著作〟、さらに『毛沢東語録』などを物神崇拝的に盲信し、他者を批判するケンカの棒にするが、いまの隠れ左翼の〝武器〟は〝ポリコレ〟=ポリティカル・コレクトネスすなわち政治的・党派的〝正論〟だ。少し距離を置いて冷静・批判的に見れば、空疎な建前論・屁理屈・こじつけに過ぎないと、すぐ尻が割れるレベルの幼稚な言い草だが、一見すると良識ありげ、思慮深げに見えないこともない。そこで隠れ左翼の正体を見切る判断力を持ち合わせない、テレビのワイドショーの〝ニュース芸人〟やコメンテーターたちは、情報化時代の新流行を追う気分で、安易に同調する。それに万事が受け身の単純な視聴者は巻き込まれる。そうした悪循環が社会を根底から歪め、崩し、壊している。

情報手段の利用が攻防を左右

 政治は〝言葉〟であり、いまふうにいえば〝情報〟の産物だ。この30年間は〝情報化時代〟といわれて、情報機器も通信手段も、それらを組み合わせた利用技術も、飛躍的な変容を遂げた。正統左翼から隠れ左翼に至る一味は、アジプロ=アジテーション・プロパガンダつまり宣伝・扇動が本領なだけに、情報の利用術には常に目を光らせているし、応用力にも長けている。マルクス、エンゲルスの時代はさておき、レーニンはもちろんスターリンも、社会の発展が遅れた中国の毛沢東も、活版印刷を駆使したパンフレットのバラ撒きを勢力拡張術の柱に据えた。20世紀前半にはスターリンや彼の仇敵のヒトラーが、ともに普及しはじめて間もない新メディアの中波ラジオを最大限に活用した。

 1980年代にじわじわと進んだソビエトの崩壊過程では、体制側が政府機関紙を頂点とする新聞、すべての出版物、ラジオやテレビを完全に支配して、国民に対し情報統制を強めたが、この手法はいささか古風すぎた。抵抗・体制転覆を図る側はヴォイス・オブ・アメリカを代表格とする西側の短波ラジオ、フィルムやヴィデオテープで持ち込まれた自由で豊かな西側の映像、さらにタイプライターや新登場のワープロを利用した地下文書の拡散、というふうに〝新兵器〟を多用して成果につなげていった。つまるところ、新旧の情報手段の利用技術の差が、体制をめぐる攻防を大きく左右したわけだ。

 その認識がこの30年に大きく影響した。ソビエトに代わって西側と正面から対峙する位置に付いた共産中国は、アジア型絶対権威主義的独裁国家の本領を発揮して、〝オールド・パブリック・メディア〟と総称される新聞・テレビに対する絶対的な支配力を握り、全国民を対象に情報統制から洗脳支配・謀略宣伝までを一手に機能させる一方で、ソビエト崩壊過程の分析から学んだ新登場した情報機器の活用に、総力をあげて取り組んだ。

 これに対し西側は、そもそもはといえば自分たちが開発した新しい情報・通信機能を、〝ニュー・パーソナル・メディア〟と総称して正統派のオールド・メディアに対比させ、〝旧〟が公共の建前を掲げる表の存在であるなら、〝新〟は私的な立ち位置から井戸端会議並の世俗情報やマニア的な話題、社会に対する不満の表明や斜に構えた体制批判など、個人の自由の範疇に属する情報発信の裏の機能として、併存させた。

自由ゆえに呈した末路の惨状

 こうした扱いかたは、自由な言論・表現環境のもとでは自然な成り行きともいえるが、世界は一様ではない。共産中国も当初は本元の西側と同様の棲み分けが見られたが、間もなく新情報機器・通信手段の領域には、当局の厳しい統制・監視・抑圧と、権力側の独占利用が及ぶ。西側のプロバイダーを通じて細々と続けられていた個人のニュー・メディア利用は、共産中国では、当局の監視と圧力に曝されて絶滅寸前の状態のようだ。

 一方当局側は、西側ではもっぱら交通安全や防犯目的で開発・普及した監視カメラを、数億台規模で大都市の要注意地点はもちろん辺境の道路の要所も含む、国内各地に配置して国民、とりわけ少数民族の民衆の動静監視手段にしている。個人用の移動式通信機器・スマートフォンの利用電波の副産物である位置情報機能を使い、要注意人物や外国人の行動確認に利用している。ドローンに搭載した小型カメラが捉えた映像を記録・分析・検索する手法も、本来の建設目的や災害対策とともに、治安・軍事目的を最優先に駆使している。情報戦に敗れて崩壊したソビエトから教訓を得た、ジョージ・オーウェルの『1984年』の上をいく、権力による情報管理の極限を冷徹に実行して、絶対権威主義的独裁をより強化しているのだ。

 西側はまったく逆で、国営・民営の差はあるとしても〝オールド・パブリック・メディア〟の側は、総じて〝リベラル〟〝グローバル〟〝分断〟〝ポリコレ〟を振りかざすパターンを漫然とルーティン化して、〝裏声で歌う緩慢な革命歌〟ともいえる様相を呈している。〝ニュー・パーソナル・メディア〟の側は、文字通り玉石混交・百鬼夜行、自由奔放もいいところで、政治的には左翼過激派から暴力的右派まで、社会・風俗的にはあらゆる常識や抑制の枠を取り払ったアナーキー極まる風潮まで、の混乱状態を曝している。

 SNSで流れる〝情報〟は、静止画像や動画でも、単純な実写と一定の意図のもとに合成されたトリック映像が、雑然・混然と流れている。文字情報も、フェイクの域を通り越した、昔風にいえば怪文書というほかないシロモノが、少なくない。それらが無統制・無制約にルールや法的制約を蹴飛ばして乱れ飛んでいるのだから、自由社会はまさに自由であるがゆえに、もはや〝情報化社会〟がいきつく末路、断末魔の惨状を呈したというほかには表現しようがない状況に堕ちつつある。

見事な分極化の招来

 ソビエト崩壊という〝成果〟のもと、西側の盛大なお囃子入りで幕をあげた〝情報化時代〟の30年は、どうやら見事な分極化を招いてしまったようだ。共産中国はいささかの躊躇もなく、民衆のSNS利用を権力によって徹底的に監視・禁圧する一方で、情報機器やその利用技術は、考えられるあらゆる方法で、統治と人権無視の民衆の管理、そして必要とあれば国内の弾圧や外部勢力との武力衝突、極端な場合には軍事利用にも、即座に駆使しうる状態で整備されている。彼らはそうすることによって内外の体制を固め、この30年間に達成した経済力と、それに裏打ちされた軍事力を頼んで、国際法や外交慣行を無視し、確立された国際秩序に対して横車を押し通し、しかも世界の少なくとも自分たちが影響力を及ぼすことのできる一部の国には、情報操作を通じて自分たちの所業を正当化しようとしてい、そうすることに、いささかの疑問もためらいも抱いていない。

 それに対して大半の西側諸国の政府は、当然ながら不快感を持ってはいるが、〝世界の工場〟時代の投資を人質に取られているだけでなく、〝14億の市場〟にも目を奪われている経済界や、彼らのスポンサーシップと自らの古臭い左翼テイストの建前に、いまも二重に縛られている旧メディアは、正面からの対中批判を避けたがっている。そうした姿勢に対するフラストレーションが、西側社会に既得権益層や既成メディアへの不満として、広く沈殿していた。そこに着目して、SNSという本音の新メディアを使って風穴を明けた点に、トランプの特異性があったのだ。

 トランプは再選ならずに敗退したが、バイデンには劣ったとはいえ、アメリカ大統領選挙史上二位の7200万の票を得て、完全に国内世論を二分している。バイデンが民主党が抱える腐れ縁を断ち切れずに共産中国に軟弱な姿勢をとったり、さすがに武漢ウイルスという背景もあって簡単には妥協はできずに、表向きは強硬な姿勢を見せたとしても、実際に中国の横車を抑止する成果をあげなければ、アメリカ世論の反応は厳しいだろう。もっとも行き詰まったバイデンが体調を口実に辞任しても、昇格するのは若く、政治経験に乏しく、しかも正真正銘の左派のハリスだ。これではアメリカの世論も政権支持を落とすことはあっても上げることはない。共産中国側もそこを読み、横車を押し続けるだろう。

 民主党は今回の大統領選挙と同時に行われた連邦議会選挙で、下院は過半数は確保したものの議席を大きく減らし、上院も改選議員の数が多く後退必至とされていた共和党に、現状を維持させた。2年後の中間選挙で民主党が両院で過半数を失う可能性は低くない。日本ではアメリカ大手メディアに追随する報道の影響で、国際協調的で対中姿勢もソフトなバイデン勝利を好感する気分が広がっているが、到底そんな単純な話ではあるまい。

(月刊『時評』2021年1月号掲載)