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俵孝太郎「一戦後人の発想」【第114回】

こんな〝取材〟が許されるか 毎日新聞・朝日新聞出版による〝報道〟を装う愉快犯行為と愚挙の肩を持つ立民・共産を断固として糾弾する

 ワクチン大規模接種を巡る予約システムの架空入力問題は、メディアの偏向ぶりにとどまらず、テロの方法教唆につながりかねない重大な問題をはらんでいるが、当の朝日新聞は自己弁護に終始し、立民らも肩を持った。今回は主要3紙の記事を列挙し、客観的に愚挙の全容を明らかにしたい。

 ここに並ぶ、同じ問題を扱った新聞記事3つを、見較べていただきたい。いずれも東京と大阪で自衛隊が全面的に参画して実施する新型コロナウイルスワクチンの大規模接種を巡り、東京発行の5月19日付都内版朝刊に掲載された。筆者が恣意的に一部を抜き出して歪曲したなどと〝犯人〟どもに逃げ口上を並べる余地を与えないためと、なにより資料としての正確さを尊重する意味合いで、それぞれ該当記事を要約せず、全文を紹介する。

力の籠もった記事の産経

 まず産経新聞。2面最上段中央に、3段の縦見出し、横には小見出しつきの脇見出しを立てて2段を分縦書きにしたリードと、通常の1段組みの本記を、分かち書きしている。リード部分にも小さい凸版の横見出しがついているし、記事とは別に、2段25行相当の箱組の東京・大阪の実施要領の対照表を添えた、力の籠もった記事だ。ただし別表はこの稿ではテーマ外だから除外している。

『予約システムを改修 
  防衛庁 架空入力メディアに抗議
   大規模接種(リードの横見出し)

 (リード)政府は18日、防衛省が運営する東京と大阪の新型コロナウイルスワクチン大規模接種センターに関し、架空情報による予約防止を目的としたシステム改修を行うことを決めた。一方、岸信夫防衛相は記者会見で、架空の接種券番号で予約ができるか検証したと報じた毎日新聞社、ニュースサイト AERA dot(アエラドット)を運営する朝日新聞出版に「厳重に抗議する」と表明した。   

 (本記)17日に始まった予約をめぐり、毎日新聞とアエラドットは架空の接種券番号で予約ができるか検証、実際に予約ができたことを確認した上で、予約システムに不備があると報じた。

 岸氏は虚偽予約防止に必要な接種券番号を含む個人情報について「防衛省が把握することは適切でない」と説明。市町村コードの真偽を確認できるよう改修する考えを示しつつ、両社の報道について「接種を希望する65歳以上の方の機会を奪い、ワクチンそのものが無駄になりかねない悪質な行為だ」と非難した。防衛省は抗議文を郵送した。

 加藤勝信官房長官は架空予約が大量に行われた場合について「悪質なケースは法的措置をとることも排除していない」と警告した。

 産経新聞社の取材に対し、毎日新聞社は、「架空の数字を入力しても予約できるとの情報があり、防衛省への取材を進めるとともに真偽を確認するため実際に入力したうえで記事化した。確認作業は公益性が高いと判断した。予約はすぐに取り消した」とした。

 アエラドット編集部は、「今回の記事は、ワクチン予約の脆弱性と、今後予約システムを使った重大な不正行為が行われかねない恐れがあることを指摘したものだ。記者はシステムを使って予約した後、すぐにキャンセルしている」と説明した』。(引用記事中にある丸カッコつきの記述は、すべて筆者による注記あるいは補足)。

責任を問う姿勢を示した読売

 次は読売新聞。中面にある内政雑報欄の下部に載せたベタ記事だが、2行分かち書きの主見出しと、記事と同じ号数だがゴチック体の脇見出しの2本建てで、産経ほどではないが、見出しに不当行為を働いたライバル社の名を明示し、責任を問う姿勢を示している。

『接種の虚偽予約 防衛省が抗議文
  朝日新聞出版と毎日に

 防衛省は18日、自衛隊による東京と大阪での新型コロナウイルスワクチンの大規模接種をめぐり、朝日新聞出版と毎日新聞の記者が架空の接種券番号などで虚偽の予約をしたとして両社に抗議文を送った。

 予約では、専用サイトに接種券番号や生年月日などを入力する必要がある。ただ、接種券を配る市区町村と番号を付き合わせないため、架空の番号でも予約できる状態となっている。

 岸防衛相は18日の記者会見で「不正な手段によって予約することは、貴重なワクチンを無駄にしかねない悪質な行為」と訴えた。悪質なケースは法的措置も検討するという。

 朝日新聞出版はニュースサイトに、毎日新聞は紙面に、それぞれ記者が虚偽予約を試した記事を掲載した。朝日新聞出版社管理部は「現段階では抗議文が届いておらず、内容を確認していないためコメントは差し控える」としている。毎日新聞社社長室広報担当は、「(虚偽予約が可能かどうかの)確認作業は公益性が高いと判断した。予約はすでに取り消している」とコメントした』。

ヒトゴトのような脇見出しの朝日

 そして朝日新聞。こちらは社会面右側の、社会対抗面あるいは2社面といわれる紙面の上段。肩は連載マンガの指定席で、その横に2段2行分かち書きの主見出しに、自分たちの行為にはまったく触れない、ヒトゴトのような脇見出しと、それ相応の中身の記事だ。

『大規模接種予約
  システム改修へ
   架空の入力でも予約可

 政府が東京と大阪に設置する新型コロナウイルスワクチンの自衛隊大規模接種センターの予約システムについて、岸信夫防衛相は18日の閣議後会見で、改修を行う方針を表明した。架空の接種券番号や虚偽の生年月日を入力しても予約ができるため、自治体から送付される接種券記載の市区町村コードで、真偽を確認できるよう変更する。

 東京会場の特設サイトの場合、券番号や市区町村コードを入力し、生年月日を選び、予約画面に入る。防衛省は各市区町村が持つ住民の券番号や生年月日の情報を持っておらず、不正に入力されても排除できないという。岸氏は「(虚偽予約を完全に防ぐ)システムを短期間で実現するのは困難。国民の個人情報を防衛省が把握することは適切ではない」と説明した。

 市区町村コードが正しく入力されたかで予約の真偽について一定の確認を行う仕組みをめざすが、券番号などは照合できないため、効果は限定的とみられる。岸氏は「くれぐれも虚偽予約はしないで」と呼びかけた。

 加藤勝信官房長官は18日の会見で大量の架空予約は高齢者の接種機会を奪い、ワクチンがムダになるとして、「悪質なケースについては、法的措置をとることも排除しない」と強調した』。

逆立ちした反応が表面化

 筆者宅は毎日新聞の購読は20年も前にやめたので、〝犯人〟の片割れの毎日新聞の紙面に触れるのはとりあえずさておき、産経・読売の記事と朝日の記事を見較べると、身内の〝犯行〟に知らぬ顔の半兵衛を決め込む朝日の不誠実さ、破廉恥さは歴然としている。毎日も20日付の〝共犯〟朝日新聞の記事によると、自らの非を認めるどころか、恬然と居直っていたようだ。その点を含めて、20日付の産経・読売・朝日3紙朝刊の続報を見ると、いくつか新しい事実が出てきた。

 まず毎日新聞などに記事が載った18日の段階で、立憲民主党がメディア側の〝犯行〟に対し、不問に付すどころか、むしろ大いに称賛して、防衛庁が関係社に抗議文を送ったほうを問題視するという、逆立ちした反応を示していた事実が表面化した。

 産経新聞のヴェテラン政治記者・阿比留瑠比は、週1回連載の署名コラム「極言御免」で、18日に表面化した事案を紹介したのに続けて、

 『立民の枝野幸男代表の18日の党会合で「拙速な進め方なのか、ずさんな予約システムの欠陥を指摘したメディアに、〝早い段階で気づかせてくれてありがとう〟というのが本来の姿だ」』

 と政府側を批判したと書いた。さらに

 『福山哲郎幹事長も同日の記者会見で「メディアに向かって抗議するとか、こういう言い草はいかがなものか」と語っていた。立民と共産党は例によって19日には防衛官僚を国会に呼びつけ、抗議理由の聴取まで実施した』

 と述べ、システムの不備は改めた方がいいにしても、いまは

 『多少の穴が残ろうと前進することが大切だろう。一日も早く一人でも多くの人にワクチンを届けるためだと働く自衛隊の士気をそぐような報道や、不要不急の官僚聴取に、どんな意味があるのか』

 と問題提起したうえで、

 『日頃は法制面その他で自衛隊の手足を縛ることを主張しながら、(ワクチン集団接種の予約に際して)個人情報を把握していないのは欠陥だと書き立てる。そして公党が報道の目的はもっともだから、(偽装予約という不法な)手段は問われないと正当化する。恣意的な倫理観が理解できない』

 と断じた。まことに正論というほかない。

 読売新聞は前日同様、中面にある内政雑報面の一隅に、ベタ扱いで、2行分かち書きの主見出しに、本文と同じ号数のゴチック体の脇見出しを添えた、短い記事を載せた。

『虚偽予約に抗議
  防衛省経緯説明
   「報道にではない」  

 立憲民主党と共産党は19日、防衛省が新型コロナウイルスワクチンの大規模接種をめぐり朝日新聞出版と毎日新聞が虚偽予約をしたとして両社に抗議したことを受け、国会内で同省担当者に経緯などの説明を求めた。

 立民の原口一博副代表は「システムに不備があり、指摘をした新聞社には抗議ではなく〝ありがとうございます〟と言うべきだ。報道の自由を萎縮させることがあってはならない」と主張した。防衛省側は「ワクチン接種を予約したいと思っている方々の貴重な機会を奪うことになる」と指摘、「報道ではなく記者が虚偽の予約をしたことに抗議した、そこは区別してほしい」と説明した』

 扱いの小ささといい、記事の短さといい、同業他社に対する忖度の感がしないものでもないが、書くべきことは書いている。いわゆる客観記述の典型なのかもしれない。

自己弁護と応援弁士の動員

 そして朝日新聞。これも社会対抗面の2段扱いという地味さだが、主見出しの右にポイントを落としたゴチック体で別見出しをつけている。記事中に、1段だがカッコつきで大きい活字を使った中見出しがある。それだけ長く、くどい記事だが、自己弁護と、この期に及んでなお、〝社是〟であるのかと疑わざるを得ないほど続けている、〝天敵〟アベに向けたストーカー的なイヤ味を、立民(朝日はこの党を仲間だと思っているのか、一般的な略称表記の〝立民〟ではなく、〝立憲〟と表記している)幹部まで応援弁士に動員して展開しているところが、笑わせる。

『大規模接種予約システム巡る記事
 防衛省「抗議」に野党が批判(主見出し)

政府が東京と大阪に設置する新型コロナウイルスワクチンの「自衛隊大規模接種センター」の予約システムをめぐり、防衛省は、架空の情報でも予約はできると指摘した朝日新聞出版と毎日新聞社に抗議文を送った。野党側は19日、抗議に至った経緯についてのヒヤリングを行った。

 朝日新聞出版のニュースサイト「アエラドット」が予約が始まった17日、防衛省関係者の情報に基づいて、記者が架空の接種券番号や市区町村コードを入力しても予約できたと「欠陥」を指摘する報道を行った。予約はキャンセルした。毎日新聞社や日経BPのサイト「日経クロステック」も同様の手法で問題を報じた。 

 岸信夫防衛相は18日の閣議後会見で「ワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、ワクチンそのものが無駄になりかねない悪質な行為」として、抗議する考えを示した。

 岸氏は自身のツイートでも会見と同様の内容を発信。実兄である安倍晋三前首相は18日夕、岸氏のツイートを引用する形で「朝日・毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える」とツイートした。

 立憲民主・共産両党は19日に防衛省に対するヒアリングを実施。芹沢清官房長は「サーバーに負担もかける」「不正な予約が積み重なったり、広がったりと波及することもありうる」と抗議の理由を説明した。出席議員からは「取材の自由、報道の自由にプレッシャーをかけることになる」という意見も出た。

 立憲の安住淳国会対策委員長は19日、安倍前首相のツイートについて、「システムに不備があることは明らかであって、指摘した側に対し〝愉快犯〟なんていう言葉を、一国の総理をやった人が使うべきでない」と指摘した。

「公益性高い」(中見出し)

 アエラドットは「予約システムに重大欠陥」などの見出しで17日に記事を配信した。防衛省関係者の情報に基づいて東京会場の予約サイトに架空の接種券番号や市区町村コード、生年月日を編集部で入力し、予約ができることを確認したという。その後、予約を取り消した。

 毎日新聞社は17日のニュースサイトと18日の朝刊で、記者が架空の接種券番号などを入力し、予約作業を進めることができたと報じた。毎日新聞は19日の朝刊で「公益性の高さから報道する必要がある」と判断したと記し、「記者が実際に入力して事実であることを確認した。予約はすぐに取り消した」と説明した、

 朝日新聞出版のコメント

 記事は大規模接種に関する予約システムについて誰でも予約できてしまう脆弱性があることを指摘したものです。取材過程での予約は情報に基づいて真偽を確かめるために必要な確認行為で、記事にある通り、確認後にキャンセルしました。政府の施策の検証は報道機関の使命であり、記事は極めて公益性の高いものと考えています』

2大汚点の教訓は生かされず

 この両日の3つの紙面の比較で、朝日ジャーナリズムの正体は、余すところなく露呈された、といえるだろう。朝日新聞は2014年に、深刻な、というのを通り越して、報道機関として致命的な問題を起こしている。

 まず、2011年に起きた東日本大震災に伴う大津波による東京電力福島第1原子力発電所の苛酷事故に際して、同発電所の吉田昌郎所長が所員に発した指示を、正反対に歪曲して非難した記事を掲載したこと。

 さらに、1982年以降、吉田清治なる詐話師が述べた、まったくの虚偽の〝告白〟を盲信した記者が主導し、それに複数の記者も呼応して、戦時中に当時日本の支配下にあった朝鮮半島のことに済州島で日本の官憲が、〝挺身隊〟と賞する〝従軍慰安婦〟を調達するために現地の少女を拉致するなどの不法行為をしばしば働いていた、とするまったくの虚偽を前提とした記事を、10年余にわたって再三紙面に掲載していたこと。

 この2つの問題の責任をとって、それぞれ当該記事を取り消すとともに、社長が辞職しただけでなく関係幹部もいっせいに更迭するという、大汚点を残したのだ。

 朝日は当時、社内調査だけでなく〝第三者委員会〟なるものを設けて事実を検証し、それなりの提言を受けて相応の反省も明らかにしていた。それにもかかわらず教訓は全然生かされず、今回も〝報道〟目的というよりは明らかに自民党政権と防衛省・自衛隊を叩くという〝運動〟目的で、記者だけでなく全社が一体となって動いたと見るほかない。

悪質行為の教唆にもなり得る

 産経は5月20日付「主張」(他紙の社説に相当する)で、「ワクチン架空予約」という横組みの見出しと、「〝報道の自由〟に値しない」という主見出しを掲げて、次のように喝破している。

 冒頭で

 『結論からいえば、これは認められない。憲法が「公共の自由に反しない限り」と定めた報道や取材の自由の範囲を明らかに逸脱している』

 と指摘し、事実経過の説明、岸防衛相のツイート、防衛省の抗議に触れたうえで

 『これに対し(毎日新聞と朝日新聞出版)両社は「予約はすぐにキャンセルした」「公益性の高さから報道する必要があると判断した」などと正当化している。

 だが一連の報道の反社会性については、アエラドットが「防衛省関係者」の指摘として報じた次の内容が証明している。

 「悪意を持った人物が、乱数的に任意の番号を次々と入力し、全ての枠を占拠することだって出来てしまう」「予約枠だけ占拠して、当日誰も行かなければ、大量のワクチンがムダになりかねない。まさにワクチンテロが出来てしまいます」

 防衛省はシステム改修を行うことを決めたが、報道時点では不正アクセスができるままだった。歯止めがないままの架空入力の手口の実例の指摘は、悪質行為の教唆、奨励と読むことも可能で極めて重大な事態を招きかねない。

 「公益性」を主張するなら、せめてシステムの改修後に報道すべきだった。

 もちろん、不正アクセスそのものが問題であり、報道目的だから許されるとの考えなら、それは思い上がりであろう』

 と断じた。そして

 『大規模接種は高齢者を対象に、一人でも多く、一日でも早くワクチン接種を完了させるためのものだ。

 自治体との二重予約が防げないなど、システムの不備はある程度織り込み済みで、広範、迅速性を優先させたと解すべきである。

 新型コロナとの克服は、時間との戦いだ。遺漏のないシステム構築に時間がかかるのなら、これを犠牲にして手背も接種を急ぐことは緊急時の判断として妥当である。悪意の助長はこれを妨げるものだ』

 と締めくくっている。

 後輩記者・論説委員の〝主張〟に、産経新聞記者となってから数えて69年目、論説委員として退社して半世紀を越えた先輩である筆者に、いささかの異論もない。まさに堂々の〝正論〟というべきである。

値上げは果て無い偏向の結果?

 阿比留記者は、前掲のコラムで

 『産経新聞では記者指針で、情報収集に当たって①自身の身元を偽る②取材目的を曖昧にする③不正な手段を行使する-の3点を禁止している。従って筆者も毎日などが執った取材手法に大きな衝撃を受けた。他社ではこれらの点は、必ずしも重視されず、求められていないのかと』 

 と書いた。筆者も入社早々、先輩から同じ教育を受けたことを思い出したものだ。

 朝日はいまや、偏向新聞という定評すら越えて、新聞の魂も規律も失った特定の政治勢力の機関紙に成り下がったといわれても、反論の余地のない状態なのではないか。それが9月から、ほぼ9%値上げするという。余りの偏向で読者が減り、赤字が嵩んで、やむなく値上げに走らざるをえなかったのだろう。先に毎日新聞社が資本金を1億円に減資し中小企業化して税の軽減を図ったことといい、多数の読者の常識を逸脱した偏向紙面の末期の悲鳴のようにも思えないものでもない。

(月刊『時評』2021年8月号掲載)