お問い合わせはこちら

俵孝太郎「一戦後人の発想」【第121回】

岸田政権が抱える三つの厄介もの 中国・公明党、そしてアベ

 衆院選で大勝を得た余勢を駆って参院選に臨みたい岸田政権だが、内外に強権的共産中国、支持者しか顧みない公明党、そして前々首相の安倍という、「厄介もの」を三つ抱えている。いずれも適切な対応を一歩誤ると、政権基盤が揺るぎかねない。

複雑多岐な難題山積

 昨年の秋、1年前には敗退した自民党総裁選挙にリベンジ出馬して当選。衆議院議員の4年間の任期切れが迫るタイミングだったとはいえ、就任早々に間髪を入れず解散・総選挙に打って出て、大方の予想を覆す成果を挙げ悠々再任。第100代内閣総理大臣のタイトルを得た第1次政権を1カ月で終え、第101代の第2次内閣を組織した岸田文雄首相は、息継ぐヒマなく参院選の年を迎えた。

 これをクリアすることが長期政権実現の条件だが、それだけではない。内外に複雑多岐な難問が待ち構えている。岸田首相はそれらをどう捌くか。まずはコロナ対応だ、という声が大多数だろうが、筆者は必ずしもそうは思わない。コロナのパンデミックは天災の一種だ。地震・カミナリ・台風と同じで人知・人能の及ぶ範囲には限界がある。そもそも、これからどんな状況が出来してどのような事態になるか。なによりも、いつになれば止まるか。それがわかる人間は、政治家にも学者にもいない。いる道理がない。

 コロナ騒ぎの初期にテレビでマイクを内閣総理大臣に突き付け、居丈高に、いつ終わるんですか、と詰問する馬鹿がいた。スタジオでは、答えられないようじゃ国民は困りますね、とシタリ顔をするコメンテーターと称するお囃し方がいた。テレビ屋の知能レベルと品性の低さを端的に示す標本だ。

人間の常識を欠く雰囲気

 もちろん刻々変化する状況に向けた政府の対応の善し悪し、政策選択の当否によって、影響の現れ方は大きく変わる。その点で首相の力量が厳しく問われるのは明らかだ。とはいえ世界を覆い尽くす悪疫の大流行は、一国の一政権、一政治家の力ではどうにもならない。帰結は天命の赴くところなのだ。

 考えられる限り最善を尽くしても、どうにもならないものはどうにもならない。これは人間だれしも弁えているべき常識だ。しかし日本の政治・行政を取り巻く雰囲気にその常識が欠けていた。左翼野党や偏向マスコミはそれなりの打算に立ち、意図的に危機感を煽り政治不信を掻き立てて、あわよくば政局に発展させようとする。大方のテレビは商売専一で面白半分、怖いもの見たさ半分で視聴者を引き付け、視聴率を稼ごうとして、不平・不満・不安を広めることに専念する。そうしたテレビが操作する世論の風向きで政治が左右される不健全な現象が起きる。

 菅義偉前首相は、日本が置かれた条件のもとでは非の打ちどころのない最善の対応を積み重ね、世界最高水準の成果を出しつつあった。それにもかかわらず俗悪低劣なテレビ情報番組のニュース芸人どもが垂れ流し続ける罵詈雑言に、耐えに耐えてきた心が突然折れた感じで、自民党総裁選挙の再選出馬を放棄し、政権を投げ出してしまった。岸田内閣出現はその結果の側面を否定できないが、そうした愚を繰り返しては日本が、日本人が、世界で、世界の歴史で、笑い者になるだけだ。

人災と言うべき悲喜劇のツケ

 人口10万当たりで比較すれば、日本のコロナウイルスの感染率は、旧年中は欧米先進国に較べて概して2桁以上も低い状態を続けてきた。いまやテレビの常連タレント化した感染症学や臨床医療の「専門家」たちも、だれ1人として、なぜそうした結果が出るのか、万人が納得する明快な理論的明ができないままだが、新しく変異したオミクロン株に至っては最近まで、日本は多くの先進国の1000分の1どころかさらに1桁下に近い、極端に低い感染率に止まっていた。年明け以降、海外からの流入が作用して急速に感染拡大が進んだが、これは政治の責任ではない。欧米各国やイスラエルなどに較べて3巡目のワクチン接種が遅い、と騒ぐ声も高いが、国産ワクチンがないのだから、生産国や彼らと資本関係・歴史的な背景で深いコネを持つ国に較べて後回しになるのはやむを得まい。

 日本は戦後久しく世界のワクチン生産大国だった。それがこんな体たらくに陥ったのには、特異な背景がある。ワクチンが人間の体内に異物を強制注入する薬物である以上、遺憾ながら、ごく稀には副作用の発生を避けがたい。それに対して、かつて学園を騒がせた過激派の言動を彷彿とさせる市民運動と自称する集団と、それと気脈を通じる一部の偏向マスコミが、製造者責任を問う世論を煽り社会問題化させた。それに巻き込まれた左傾裁判官が下す、重い賠償金を課した判決に脅えた製剤業界が、いっせいに新規ワクチンの開発・生産事業から撤退したのだ。

 人災というほかない悲喜劇のツケが、いま重くのしかかっている面は否定すべくもない世だが、多くの新聞やテレビ報道の主流は、自分たちや少なくとも同業者が蒔いたタネの報いとわかっているから、君子危うきに近寄らず、黙っている。いま騒いでいるのは、無知蒙昧を絵に描いた若手のアナウンサーと、お笑い芸から転進したニュース芸人だ。それでもテレビが騒げば釣られる視聴者は出てくるし、それを売名的な国会質問に使う野党議員も現れる。しかし政府もそれ相応に打つべき手は打っているのだから、遠からず必要量のワクチンは入ってくるだろう。

 オミクロン株は、感染者の重症率や死亡率がそれまで主流だったデルタ株などよりも低く、病毒も悪性度が弱いとされている。それならそう大きな被害は起こさずに、感染の広がりが遅れた分、ワクチンの抑制効果が続くうちに別の変異種が出現して、局面が変わるかもしれない。運がよければ、さしものコロナ禍もここらで収束に向かうかもしれない。100年前に世界を震撼させたスペイン風邪も、足掛け4年、3波の大流行を経て収束した。終わりのない悪疫の流行はないから、2019年の晩秋に中国武漢でヒト・ヒト感染が始まったコロナも、そろそろ収束時期を迎えても不思議がないところまできているという期待も持てないものではあるまい。

筆頭は、摩擦の総根源

 本題に移って岸田内閣が抱える三つの「厄介もの」だが、その筆頭が習近平政権下の共産中国なのは、だれも否定しまい。少なくとも数世紀間は「眠れる獅子」の状態を続けて欧米を中心とした侵略に甘んじ、半世紀前までは図体こそデカいが発展途上の貧困国に過ぎなかった中国が、共産党一党独裁の非民主的・権威主義的な国家体制のもとで、まず強力な軍事力を整備し、高度のハイテク製品と巨額の資金を持つようになり、世界の覇権をアメリカと争おうという異形の大国になったこと。そして、いまや支援と称する貸付金の拘束と巨大な軍事力による威圧で、従属的立場に追い込んだかつての途上国仲間を巻き込み、長い積み重ねの中で成立し定着した国際法や国際慣行をアタマから無視して、外交・軍事・貿易・金融・人権などあらゆる面で、自分が勝手に決めた独善的なあり方を強引に押し通そうとして、世界中の摩擦の総根源になっていること。この二点も中国とその仲間以外は、だれもが認めるに違いない。

 国際社会の中のいまの習・中国の振る舞いに対して、G7各国はもちろん、自由主義・民主主義に立つ国は例外なく違和感を持っているといって間違いない。日米同盟を機軸とする自由・民主国家である日本も、もちろん強い違和感を禁じ得ないでいる。とはいえ、地政学的条件や歴史的事情によって、国ごとに対応姿勢に差が生じるのはやむを得ない。

 日本の場合、中国はなによりもまず、朝鮮半島という緩衝地帯があるとはいえ、一衣帯水といって過言ではない距離感ですぐ隣に位置する大国、それもいまや軍事力でも生産力・経済力でも日本を遥かに超える超大国である一方、輸出入の双方で最も大きいシェアを占める貿易相手国でもある、という存在だ。

曖昧な国家間協定が現在に禍根?

 朝鮮半島を含めて、19世紀末から20世紀前半に至る期間、一足先に近代化した日本が隣接地域に対して軍事的・政治的圧迫を加えてきたことは、事実として認めざるを得ない。敗戦後の日本は、戦時中はまだ一部の地域を占拠し支配する軍事組織にすぎず、戦後になって内戦の末に共産国家として発足したばかりの中国と、日本から分離独立した朝鮮半島の南半分に成立して間もない韓国に対して、さまざまな形で巨額な資金を供与してきた。日本の財界も、日本政府が拠出した無償供与や借款、あるいはODA・政府開発援助の資金的な裏付けがある安心感と、彼らが当時抱えていた低廉な労働力、そして将来の市場としての可能性に期待する面も作用して、中韓の近代化・高度工業化のために資本を投下し設備を整えさせ、さまざまな新技術やノウハウを伝授・供与してきた。

 日本と近隣諸国との関係は、それぞれ正規の交戦相手国ではなかったのだから当然の話だが、講和や賠償といった国際的に定着した履行条件と終了期限を明示する法的手続きではない、婉曲で曖昧な感触を残した国家間協定として進められ、ときに未確定で不透明な部分を残したまま、なし崩し的に実績を積み上げていく状況がある。それがいまの中韓の国際法・国際慣習に関する無理解や無視によからぬ影響を及ぼしている側面がある、という論点も成り立つ。この論点はいままで全然取り上げられてこなかったが、一考されるべき視点なのではないか。

 なにも中韓に限った話ではない。敗戦前後のドサクサ紛れに火事場泥棒よろしく北方領土を不法占拠したまま、平和条約締結・国境線確定に至らず居座り続けているうちに、ソビエト社会主義共和国連邦からロシア共和国に国家体制が変わったのに、なにが、どこまで、日本との外交交渉の課題として引き継がれているのか、いないのか、さっぱりわからず漫然と放置され続けているケースもある。

 内向きの人事序列や経費管理にはうるさくても、外向きには万事につけ脇が甘く、とりわけ経営層が技術に疎いため技術情報の管理が極めてルーズな日本の企業風土に接し続けたことが、中韓の先進国の特許・商標や技術情報に対する平然たる侵害に反映されてはいないか。日本固有の領土である尖閣諸島の警備に当たる海上保安庁の艦艇に対して、尖閣と遠く離れた沖縄本島に近い海域で、偽装警備艦と思われる「中国漁船」が故意に衝突してきて、日本当局が相手方の船長を逮捕し那覇まで連行したことがある。当時の菅内閣―自公政権のスガでなく民主党首班のカン内閣は、周章狼狽の極、処置に関して検察に諮ることさえもせず、その夜のうちに先方が派遣してきた特別機で送り返した。それを期に、まずフィリピン近海、ついで南シナ海で、中国艦船の国際規準に反した横暴な振る舞いがやたら出現してきたことは否定できない。これらの点も改めて検討されるべきだろう。

「有効のしるし」に対する使命

 それはさておき、岸田首相は保守本流を自負する宏池会から出た5人目の首相である。いまさら保守本流論議でもあるまい、という声もあろうが、吉田茂の2人の愛弟子、池田勇人・佐藤栄作の流れを本流とし、吉田と対立した鳩山一郎・岸信介・三木武夫の流れを反本流とする派閥政治全盛時代の区分に従えば、池田・大平正芳・鈴木善幸・宮沢喜一の後、岸田は28年ぶりの総理総裁になる。

 宏池会は創始者の池田いらい経済界との関係が深く、また大平が田中角栄内閣の外相で日中国交樹立の主役の一人だった関係で親中国的とされてきた。四面楚歌の状態の習・中国としては、19世紀から続くクサレ縁的側面を含め、アメリカで共和党に較べ遥かに近い関係を続けた民主党のバイデン政権も同様だが、日本にとかく敵対的だった安倍政権とその後継の菅政権に代わって宏池会政権が登場したのは、歓迎すべきことに違いない。首相の岸田が率いる派閥のナンバー2で、しかも日中友好議員連盟のトップを務めていた林芳正が外相に入閣したことも含め、岸田内閣には内心大きな期待を抱いたのではないか。 

 しかし習・中国を取り巻く国際社会の空気は厳しい。そこは岸田・林も百も承知だし、日本の対中世論の急激な硬化も当然軽視できない。日中関係で、両国民の相手国に対する好き嫌いを聞く、というユニークな世論調査を半年に一回程度の頻度で聞く団体がある。かつては中国とは正反対に、日本は中国に対して好意的な見方が多かった。しかしここ数年、日本人の対中感情は下降線を描き続け、最近は80%台、それも9割近い回答が、中国は嫌い、と答え、好き、という回答は10%台前半に止まっている。中国側もアンチ日本の回答が多数派だが、それでも60%台前半だ。この世論は岸田内閣も軽視できまい。

 こうした変化は習・中国が招いた自業自得だというほかないが、中国側にその自覚はない。バイデン・アメリカに対しても当初そうした傾向があったが、岸田・日本に向けても習・中国は、今年が国交正常化50年の節目の年でもあり、さまざまな「友好のしるし」を求めてくるだろう。そこをどう、いなし、かわしつつ、中国に対して隣人として、国際社会の有力な一員である以上は国際的に定着したルールに沿った言動を心掛けるべきだ、と説得することができるか。それが岸田首相や林外相に求められる使命だ。この一点で一定の成果を内外に示せるかどうか。参院選とは必ずしも直結しないとしても、参院選後の大きな課題になることは間違いない。

連立の基盤にかかわる公明の出方

 中国との対応は連立与党としての公明党との関係にもつながる。彼らが政権与党の一員として習・中国に対する岸田政権と歩調を合わせれば問題ない。しかし彼らの唯一の支持組織である創価学会には、習体制が成立する遥かに前からの長く深い共産中国との縁故来歴がある。それに引きずられて、公明党が岸田政権に課せられたアメリカの同盟国・自由世界の一員としての使命を軽んじたり、前国会からの懸案の人権問題に関する対中非難決議に抵抗・妨害したりすれば、これは政権連立の基盤にかかわる大きな障害になりうる。

 憲法の問題もある。宏池会は伝統的に経済重視・軽武装を唱え、改憲に必ずしも積極的ではなかった。改憲派の安倍内閣でも連立した護憲派の公明党としてはひと安心か、というとそんなに安易なものではない。

 多くの読者は先刻ご承知と思うが筆者は、現行憲法はアメリカを主体とする占領軍が、内務省解体とセットで強制した日本弱体化策だ、とかねがね指摘してきた。憲法は独立国家にとって主権の根幹を為す軍事・戒厳・非常事態対処法制を禁じた。そして内務省解体は、本省が人事権を持つ官選知事に対する通達・通牒によって、一元的に指揮・統率・管理し、的確かつ効率的に運営していた治安維持や衛生行政の権限を、都道府県・区市町村に細分・分散することによって、意図的に非効率化・不統一化した、と述べてきた。

 護憲、は実は宣伝文句にすぎず、国の権限弱体化を歓迎する左翼を中心とする勢力は、占領憲法を盾にとって自らの勢力の保全・拡大を図ってきた。マスコミの大勢も、憲法学会や日教組が主導する義務教育分野も、この動きに呼応していたし、創価学会・公明党ブロックもその一角にあって改憲、正確にいえば憲法の正常化に抵抗し続けてきたわけだ。

 しかしこうした策も、四分の三世紀たてば通用しにくくなる。昨年の総選挙の結果、維新・国民の改憲野党は躍進し、公明は共産・立民・社民らの占領憲法死守派とともに後退して、維新に劣る非自民第3党に転落した。

 コロナ禍に対し国として一元的に対応するうえで、現在は憲法に由来する法的・制度的限界があり、国は都道府県・区市町村に対してそれぞれ細分された法定権限に応じた施策に向けたコマ切れ的な指示しかできず、国民や企業に対してもいわゆるお願いベースで対応するしかないという、法体系の欠陥はいまや白日の下に曝されている。それを是正して国の権限の弱さ・軽さを抜本的に改善するには改憲しかない、という考え方はいまや多くの国民に定着した。自民・維新・国民民主の各党も、岸田内閣もこの点では同じだ。国会でこの線で論議が進み、発議案件が具体化すれば、公明党は与党の一角としての覚悟を迫られるが、さてこの時、彼らはどう出るか。

与党ボケにより、反省もなし

 岸田首相、とともに国民世論の大勢と公明党の姿勢の違いは、他にもある。安倍内閣時代の最初の全国民一律10万円バラ撒きの愚策は、当時の岸田自民党政調会長が、コロナで困窮する世帯に30万円を給付する案を提起、安倍も同意して閣議決定も終えた。ところが、多分オレのところに10万円はこないのかという党支持者の突き上げを食ったのだろうが、公明党が強く抵抗し、全国民一律総バラ撒きに切り替わった。

 岸田内閣でもコロナ対策として低所得世帯の18歳以下に10万円を給付する案に対して、公明党は所得要件の引き上げを迫り、半分は現金で半分は地域経済支援を兼ね使途を教育支出に限定したクーポン券で支給する、という案にも抵抗、全額現金に固執した。結局双方どちらかの選択を区市町村に任せるという決着になったが、全国1741区市町村のうち半々はたったの7つに終わった。

 公明党はこの種のバラ撒き方式に固執するが、マスコミの世論調査では一貫して現金バラ撒き、ことに無差別一律同額バラ撒きには賛否あい半ば、というよりは反対が僅かだが過半数を越す。世論はそこそこ健全だが、中央も政府も行政組織は、実態は少数党派に過ぎないのに支持者の欲で動く公明党に振り回されがちという状態は、健全とはいえまい。

 清潔を自称してきた公明党だが、このところスキャンダルが目立つ。コロナ禍で国民に自粛を強いる一方で銀座で豪遊していた議員複数を辞職させたが、そのうちの一人で参院から衆院に転じ、在任が長くなった現職に代わり近く党代表就任か、と噂されていた元財務政務次官が、バッジを失ったら会社をつくり、仲間とともにコロナ対応の政府機関による中小企業向け融資の口利きを大規模に始めて、闇融資コンサル容疑で起訴された。

 公明党の大臣が続き、指定席とされる国土交通省では統計不正が発覚。現職大臣が過去の事案に関して反省の弁を述べたが、その口の下から彼の就任後の最新の不正が露見するお粗末さだ。公明党大臣の指定ポストは、かつては厚生労働省だったが、厚生年金で不祥事が出て、国交相に変わったという経緯がある。派閥政治全盛期の自民党でも、特定派閥の指定席化した省庁では不祥事が起きがちだという定説があった。その反省も、どうやら与党ボケ化した公明党にはないらしい。

人材難の所産で長老気取り

 そして岸田首相第3の「厄介もの」アベ。いうにゃ及ぶ、前々首相だ。

 率直にいって、筆者の安倍晋三に対する評価は甚だ低い。そもそも小泉純一郎の後継首相がなぜ官房副長官だけで大臣歴のない安倍になったのか。福田赳夫の怨念を強く受け継いでいた小泉の、派閥根性剥き出しの仲間うちのバトン渡しというほかない。

 第1次内閣の突然の投げ出しは醜態の極というほかなかったし、「悪夢の」民主党政権の退陣を受けた第2次から第4次にわたる7年8か月の長期政権に関しても、中韓に対する一貫した姿勢は大いに評価するが、つまるところは自民党の人材難の所産、というほかない。吉田・鳩山、池田・佐藤、三角大福の時代を知る古い政治記者なら、だれもが共通して嘆くに違いない。

 本人はアベノミクスに自信・自負があるようだが論外だ。財政規律のカケラもないバラ撒き施策に過ぎず、これじゃ公明党の友達になれるさ、という話だ。知性・感覚で釣り合う若手議員と一部のヨイショ記者を側近に、長老気取りで岸田に料亭会談を求めて講釈を垂れる姿は、お笑い草というほかない。

(月刊『時評』2022年3月号掲載)