
2025/12/12
――環境面だけでも大変大きな政策課題ですが、バイオマスに関してはいかがでしょうか。
木村 間伐材や食品残渣などのバイオマス資源の利活用だけでなく、営農型の太陽光発電など、農林水産分野における再生可能エネルギー全般の活用を促進しています。
――再エネについても、技術開発が日進月歩で進展しているようですね。
木村 再エネに関して自分が注目しているのが、有機薄膜太陽電池です。現在主流の太陽光発電はシリコンパネルで、これに続くものとして、軽量かつ変形可能なペロブスカイトの普及が進められているところですが、ペロブスカイトと同様の利点を有し、さらに波長選択性という特性を持たせることができるのが、この有機薄膜です。太陽光にはさまざまな波長の光が含まれているのですが、有機薄膜は各波長を選別して、例えば赤色と青色の光は植物の光合成に使い、緑色の光は発電に使う等、用途別に使い分けるという技術です。
――大変高度な技術ですね。
木村 形状としてはペロブスカイトのように軽量でフレキシブルなシート型なので、ビニールハウスの上に設置することができ、太陽光の効率的な利用が可能となります。まだ実証段階ですが、これが実用化されれば電力を必要とするハウス栽培でも、自家発電できるようになります。コスト削減によって生産者の収益が上がると同時に、環境負荷の少ない持続可能な農業の実現にもつながります。
何より近年の猛暑でハウス内での作業がより過酷になり、熱中症などの危険な状況にもなりますから、有機薄膜の設置により遮光することで作業もしやすくなり、一石二鳥、三鳥にもなります。今のところシリコンやペロブスカイトに比べると、まだ発電効率が低い点などが課題ですが、今後の再生可能エネルギーの新たな可能性として、注目しています。
――こうした技術開発力は日本の得意とする分野ではないでしょうか。
木村 単なる遮光でなく、作物に適したきめ細かな技術開発が求められており、まさに、日本の技術力を発揮できる分野だと思います。こうした新技術で、環境バイオマス分野の新たな可能性を見出していきたいと思います。
――まず導入を図るとすれば、個別農家よりも農業法人や産業界などから、というところでしょうか。
木村 ご指摘の通り、現場の生産者に取り入れてもらうのが理想ではありますが、多額の投資をして新技術を取り入れるほど資本力がないケースも多いのが実情です。従って他産業の企業から農業界に投資を呼び込むような対応が、今後ますます求められます。
特に、本年、改正GX推進法が成立し、2026年度より年間10万トン以上のCO2排出企業に対して、排出量取引制度への参加が義務付けられます。産業界がCO2削減努力をより一層求められるようになり、農業で前述のバイオ炭等の各種取り組みによってクレジットを創出し、他産業の企業の削減努力に貢献していく、という構図が描けるようになりつつあると言えるでしょう。
――J-クレジット(排出削減・吸収量認証制度)もこの機に、もう一段活性化していく可能性がありますね。
木村 CO2排出量が多い企業ほど対応の強化を求められるようになり、自社で削減するか、それが難しい場合は他からクレジットを調達するということになるでしょう。農業分野も、そのニーズにしっかり応えられるようにしていくことが必要です。現段階から生産現場に農業が果たすことのできる役割を理解してもらい、対応を促していきたいと考えています。
欠かせない、自治体の役割と関与
――では自治体の役割はいかがでしょう。環境対応と生産性向上の両立は、自治体にとっても大いにプラスにはたらくかと。
木村 はい、バイオマスの推進において自治体の関与は非常に重要です。というのも、木材や家畜排せつ物などのバイオマスの原料が地域内に広く分散して存在しているため、これを収集・調達して資源化するのは容易ではありません。それ故、ある程度エリアごとに集約化を図る上でも自治体の関わりが重要となります。
この点、われわれも「バイオマス産業都市」という形で、バイオマスの収集・運搬、製造、利用までの経済性が確保された一貫システムを構築し、地域の特色を生かしつつバイオマス産業を軸とした地域づくりを目指す取り組みを後押ししています。意欲のある自治体を支援するとともに、自治体間で各種取り組みや事例の共有を行っています。
――まさに地元の状況を最も把握しているのは自治体ですので、積極的な関わりが望ましいですね。
木村 もちろん民間での取り組みも促進していきますが、採算ベースに乗らないケースも少なくありません。ただ、以前は環境の価値がそれほど認識されていなかったのに比べ、現在はJ-クレジットをはじめその価値が評価され、取引される時代となりつつあります。
その際、まず自治体が先鞭をつける、企業が活動できる環境を整える、等の取り組みに着手することが大事だと認識しています。もちろん地域々々によって賦存するバイオマスは異なりますので、利活用に向けたプロセスも一様ではありません。地域間の違いは非常に大きいですが、地域にとって貴重な資源ですので、自治体の皆さまにいつでも取り組んでいただけるよう、われわれも「バイオマス産業都市」の仕組みをさらに整備していきます。自治体の意欲的な取り組みに期待しています。
――環境対応を図ることが企業価値の向上につながる現在ですが、自治体の場合も同様に何らかのインセンティブがはたらくことが望ましいですね。
木村 自治体も人員・予算ともに限られますが、バイオマスをはじめ環境対応の先進地域として積極的に取り組むことで、企業の投資を呼び込み、地域の活性化につなげるなど、自治体主導で環境価値を高めることが、地域全体にとって大きなメリットになると考えています。これまでも意欲的な自治体の皆さまにはさまざまな取り組みを進めていただいていますが、過去から積み重ねた知見や人脈が当課にはありますので、自治体の皆さまには東京にお越しの際は、ぜひ当課にお気軽にお立ち寄りいただき、ご相談に乗らせていただきたいと思います。
――誌面を通じ、各方面に対してメッセージなどお願いします。
木村 まだ着任して3カ月ですが、農業分野における環境バイオマス政策は、これまでの諸先輩方の知見が多く蓄積されており、まずはこれをしっかり吸収したいと思います。その上で、本日お話ししたバイオ炭や有機薄膜といった新しい技術の開発・普及を促進し、農業が環境の負荷になるのでなく、むしろ環境の保全に貢献する産業として発展するよう後押しをしていきたいと思います。
生産者の皆さまには、食料生産と合わせて、J-クレジットなどの仕組みを活用して、環境価値を創出する取り組みを促していきます。また、食品企業など他産業の皆さまには、環境価値を生み出す産業である農業にもっと投資をしていただけるようにしていきたいと思います。消費者の皆さまにも、このような農業と環境の関係を理解していただきながら、生産から消費に至る食料システム全体で環境への投資が行われ、それにより創出される価値が評価されて、また次の投資につながっていく、こうした好循環を実現していきたいと思います。
あらゆる仕事に全力で取り組んでまいりますので、関係各位のご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2025年11月号掲載)