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経済産業省/安全・安心な社会の実現に向けたガス政策

―ガスの安全高度化実現に向けて―

おかもと しげき/昭和46年生まれ、大阪府出身。大阪府立四條畷高校、京都大学大学院工学研究科資源工学修了。 平成8年通産省(資源エネルギー庁石炭部産業課)入省。23年産業技術環境局産業技術政策課技術調査室長(併)技術評価室長、25年資源エネルギー庁資源・燃料部政策課燃料政策企画室長、27年内閣官房TPP政府対策本部企画官、29年経済産業省製造産業局素形材産業室長、令和元年復興庁統括官付参事官付企画官、3年経済産業省産業保安グループ鉱山・火薬類監理官、4年2月よりガス安全室長を併任。
おかもと しげき/昭和46年生まれ、大阪府出身。大阪府立四條畷高校、京都大学大学院工学研究科資源工学修了。 平成8年通産省(資源エネルギー庁石炭部産業課)入省。23年産業技術環境局産業技術政策課技術調査室長(併)技術評価室長、25年資源エネルギー庁資源・燃料部政策課燃料政策企画室長、27年内閣官房TPP政府対策本部企画官、29年経済産業省製造産業局素形材産業室長、令和元年復興庁統括官付参事官付企画官、3年経済産業省産業保安グループ鉱山・火薬類監理官、4年2月よりガス安全室長を併任。

2030年を目標として都市ガスの保安対策の方向性を示した「ガス安全高度化計画2030」。そして液化石油ガス(LPガス)においても同様の定義で定められ、取り組みの進む「液化石油ガス高度化計画2030」。2030年死亡事故ゼロに向けて進む計画の概要と進捗について、そしてテクノロジーや自然災害などガスを取り巻く状況の変化に対応できるよう提出された「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律案」の法案提出の背景から概要について、経済産業省産業保安グループガス安全室の岡本室長に話を聞いた。


経済産業省 産業保安グループ ガス安全室長
岡本 繁樹氏


ガスの安全と保安―ガス事故の推移

――日常生活や社会活動を営む上で欠かせない生活インフラの一つであるガス。まず、そんなガスの安全・保全を取り巻く現状と課題についてお聞かせください。

岡本 一口にガスといってもガスには都市ガスと液化石油ガス(以下、LPガス)がありますので、安全・保全の状況についてはそれぞれ近年発生した事故の傾向からお話ししたいと思います。

 まず都市ガスについてですが、全体の事故件数は2013年をピークに減少傾向にあり、これには消費段階における事故件数の減少が大きく影響しています。一方、供給段階の事故はおおむね横ばい傾向にあり、2016年以降は消費段階の事故件数を上回っています。製造段階における事故原因には、ガス切れや事業者の不注意などに起因する誤作動、そしてガス工作物の不備などがあります。また供給段階において最も多い事故原因は他工事、いわゆる他業種の人が行う工事に起因するもので、これが約47%。次いで本支管や供給管の不備(経年劣化)などによる事故が約20%を占めています。そして消費段階では、ガス漏えいによる着火などが約97%と多数を占め、排気ガスによる一酸化炭素中毒事故は約3%になっています。3%というと割合は高くないようにみえますが、一酸化炭素中毒事故は人身被害に直結する重大な事故になる恐れもありますので、引き続き対策が必要だと考えています。

 次にLPガスについて触れておきます。2021年の事故件数は212件、前年比で14件の増加になっており、その主な原因は雪害です。2020年は0件だった雪害事故が19件発生していますので、それが影響したと考えています。一方、一酸化炭素中毒事故は発生していません。

 都市ガスと同様に原因別でみると、他工事事故が約30%発生しており、2019年、2020年と比べて最も高い割合になっています。そのためガスを製造し、送り届ける人たちの取り組みも大切ですが、ガス関係者以外が行う工事で事故が発生しないようにしていく必要があると考えています。

――他工事事故ですが、ガス事業者以外がガス工事をすることがあるということでしょうか。

岡本 例えば家やビルの建設工事や水道工事の過程でガス管の存在に気が付かず導管を損傷させてしまうといったことがあります。ガス事業者であればガス管の配置なども熟知していますが、他の事業者ではそれに気が付かなかったり、そもそもガス管に注意することを知らなかったという場合もあります。

 他工事事故は近年増加した事故ではありません。LPガスでいえば、2016年から2021年までは約25%を占めていますので、事故の原因としては以前から高い割合を占めていました。

――LPガスでは雪害による事故が多かったとのことですが、こうした多発している事故への対策、取り組みとしてはどのようなものがあるのでしょうか。

岡本 昨年は雪害による爆発事故で死者が出ていることもあり、対策が必要だと思っています。まず雪害による事故について説明しますと、LPガスは都市ガスと異なり、戸外に容器などで貯蔵されている場合が多く、容器と配管の接続部分に雪が落ちてきたり、溜まったりして配管が損傷するなどしてガスが漏えいし、結果的に事故になるというものです。そのための対策としては、LPガス容器の周囲には雪が落ちてこないように、溜まらないようにするといったことになります。

 経済産業省では東日本大震災以降、LPガスの安全を図るために「LPガス災害対策マニュアル」を作成してきました。マニュアルでは雪害対策についても触れており、販売事業者(供給施設)を対象としたハード対策として、①設備の保護、②損傷しにくい設備の設置、③漏えい防止機能付き設備の設置――。そして一般消費者を対象としたソフト対策としては、①雪下ろし、②速やかな排雪、③販売事業者等への連絡――といった対策を記載し、雪害事故の防止に向けた取り組みを進めています。

 またマニュアルは雪害だけでなく、近年、激甚化する自然災害を踏まえて、水害などの対策を充実させるとともに、2021年6月に改正された「液化石油ガス法施行規則及び例示基準」にも対応できるように今年4月に改訂しました。この改訂マニュアルが事故防止に少しでも役立つために、現在、事業者をはじめ、多くの関係者に周知を図っているところです。

ガス安全高度化計画2030
  ―目標の実現に向けて



――ガスの安全と保安については、2030年の死亡事故ゼロの実現に向けて「ガス安全高度化計画2030」に取り組まれています。改めて本計画の概要から目標の実現に向けた進捗についてお聞かせください。

岡本 まず都市ガスに関するガス安全高度化計画について触れておきます。「ガス安全高度化計画2030」は、経済産業省の産業構造審議会保安・消費生活用製品安全分科会ガス安全小委員会において、2020年を目標年度として実施してきた「ガス安全高度化計画」の結果、そしてガス事業を取り巻く社会環境の変化と想定されるリスクなどを踏まえ、今後10年間を見据えた総合的なガスの保安対策として改定された計画です。特徴としては、2030年の死亡事故ゼロに向けて、国、ガス事業者、需要家および関係事業者などが、各々の果たすべき役割を着実に実行するとともに、環境変化を踏まえて迅速に対応することで、それぞれの事業者が協働して安全・安心な社会を実現することを目標にしているところです。繰り返しになりますが、特定の誰かが、ある場所だけで取り組むものではなく、都市ガスに関与する国、事業者、そして需要家を含めた全員で事故を撲滅、根絶していくことを目指しています。

 そのためそのためガス安全高度化計画には、安全高度化指標、例えば全体の目標として2030年時点で死亡事故は0~1件未満(過去5年間の平均)にするといった個別の目標が定められています。その目標に向けた具体的な取り組み内容は、実行計画(アクションプラン)として定められていますので、実行計画を確実に実施し、目標を達成で
きるよう努めているところです。

 またLPガスにおける安全高度化計画である「液化石油ガス安全高度化計画2030」は、昨年の春に液化石油ガス小委員会において、初めて策定されましたが、その構成は都市ガスの「ガス安全高度化計画」と同じものになっています。

 まだ計画を実行に移したばかりですので、現段階での進捗については評価しづらい部分がありますが、2030年の目標値に対して、それ以下になっている点もありますので、その点は維持しつつ、最終的な目標達成に向けてこれからも継続的に取り組んでいきたいと思っています。