
2026/04/21
日々発展する情報通信技術、その基盤を成し経済・社会の利活用を根底から支えているのがネットワークインフラである。現在、同インフラをめぐる環境が急速に変化、しかも技術的進展だけでなく経済安全保障という新たな視点も投影されつつある。今後のネットワークインフラはどのような方向に向かうのか、杦浦維勝課長に、今般の情勢と展望を解説してもらった。
総合通信基盤局電気通信事業部電気通信技術システム課長 杦浦 維勝氏
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通信基盤における経済安保の観点
電気通信事業部は文字通り電気通信事業者を所管し、古くは事業者間の競争が公正に行われているか等を中心に政策を展開してきました。例えば各事業者が敷設したネットワークインフラが公正な競争を阻害していないか監督するのも仕事の一つとなります。
そのネットワークインフラに関してはここ数年、考える視点が以前に比べ変わってきたように思います。例えばクラウド。通信機器はもともと事業者さんが自前で設備を用意し、その上でサービス展開するのが一般的だったのですが、現在は通信設備が汎用的なハードウェア上で、ソフトウェアの機能によって動くようになったため、各事業者が必ずしも自前で整備するのではなく、むしろ集約化した方が柔軟なリソースを確保できることとなりました。電気通信分野でこのクラウド、さらに言えば大手プラットフォームが提供するクラウドを電気通信のようなパブリックなインフラ用の設備として使用する、こういうケースが今後出てくるものと想定されます。相対的に、セキュリティ面などの観点もまた、公共インフラ分野において急速にクローズアップされている、という状態です。
他方、大容量の光通信ネットワークを日本は独自に開発、調達できるのかという大きなテーマが控えています。特に近年ではデータセンターの相次ぐ建設によって大容量かつ最新の通信設備需要が急速に高まり、その整備とメンテナンスに必要な人手の確保・育成が大きな課題となっています。
さらに重要インフラである通信基盤において、経済安全保障を法律に基づいて運用している、それが今日のネットワークインフラが置かれた状況となります。2023年11月に施行された経済安全保障推進法においては、①重要物資の安定的な供給の確保、②基幹インフラ役務の安定的な供給の確保、③先端的な技術の開発支援、④特許出願の非公開に関する四つの制度を創設、の主要な柱を一体的に講じるとされています。
このうち基幹インフラ制度に関しては、電気、ガス、水道、鉄道、運送、放送、通信、金融等の15分野を対象に、「インフラ整備が役務の安定的提供を妨害する手段として使用されることを防止」とあります。さらに経済安全保障推進法では、これら基幹インフラを保有・管理する「特定社会基盤事業者」が重要設備を新たに導入する、あるいはその設備に関する作業を外部に委託するときは、所管大臣に届け出する決まりになっています。その内容をもとに所管省庁では、委託先がどこの国か、必要な機器はどの国からの調達か、等々を含めて概要を細部にわたりチェックします。
能動的セキュリティと通信情報
そして経済安保の観点からは、サイバー攻撃への能動的対応、つまりアクティブなセキュリティ体制構築も不可欠です。従来は攻撃からの防御と被害の最小化に主眼が置かれていましたが、今後は攻撃者のあらましが把握できればこちらの方から無害化を仕掛ける、これがアクティブの主たる意味だと言えるでしょう。
ただ能動的対応を図るには、攻撃者について詳しく知る必要があり、そこで通信情報の活用が期待されています。憲法上「通信の秘密」は確保されていますが、これを攻撃者情報の特定等、特別の場合において通信情報を利用する、これがサイバー対処能力強化法・整備法の一つの柱になります。
他方、サイバー攻撃の最新動向や情報などを官民で共有し、未然防止や対処支援の強化を図ることも求められます。また重要インフラ事業者に対しては、導入した一定の電子計算機の届け出を制度として求めています。要するにコンピューター類は常にサイバー攻撃を受ける際の入口にあたり、そこから特定の機器の脆弱性や、そこを標的とした攻撃手法が開発された等の情報をキャッチした時、行政サイドから事業者へ情報内容を速やかに一報するため、事前に届け出をしてくださいという趣旨になっています。従ってハードウェアというより、そこに搭載されているOSやアプリの情報をむしろ教えてもらえればと思います。
国際海底ケーブルをめぐる諸課題
ただ、内外情勢の変化によって新たな議論や検討分野が次々と生じ、一度制定された法律も見直しが迫られています。経済安全保障推進法関連では、例えば海底ケーブル敷設に代表される役務の扱い、また電子カルテや集中治療に関連する設備を含めた医療分野の追加、さらにシンクタンクやデータセキュリティ等の新たなスキームも議論の対象としてクローズアップされています。
現在、国際通信の99%は光海底ケーブルを経由するなど、光海底ケーブルは経済活動において必要不可欠な重要インフラです。が、その敷設にあたっては、特殊な構造を有する敷設船が必要です。そのような敷設船は世界でも隻数が少ないため、海底ケーブル敷設にあたっては、国際的なコンソーシアムが組まれて多数のプレーヤーの下に設置・維持・管理されるのが現状です。それ故に、経済安全保障推進法の枠組みにどう取り入れていけるかが主要な論点となります。
総務省では海底ケーブル検討会を立ち上げ、現在の状況分析をもとに、ケーブルの防護策、冗長性確保、監督体制、供給等の各種方策について、多角的に議論を進めているところです。敷設された国際海底ケーブルですが、漁業や錨、その他の人為的活動により、切れる等の損壊事案が増加傾向にあります。
これらのケーブルは従前、主に通信事業者が所有主体となっていましたが、今般その主体は圧倒的な通信量を有するクラウドサービス事業者、すなわちハイパースケーラーへ移行しつつあり、今後はこれらハイパースケーラーが関与する敷設プロジェクトの割合が全体の70%以上に達するとも想定されています。また現在は日米仏の三大サプライヤーがシェア90%以上を占めていますが、こちらも新興国を中心にサプライヤー競争が激化するだろうと指摘され、現にフランスでは政府が通信事業者を買収し国有化するなど、国との連携が緊密化している動きが出てきています。また米国やEUは近年、国際海底ケーブルの許認可や防護などについて新たな方策や規則を相次いで打ち出し、セキュリティや修復に関する規律や計画などを明確化していますので、こうした部分に日本としてどのような策が打てるのか、考えていかねばなりません。