
2025/06/24
気候変動への対応や生物多様性の確保が国際的にも求められる中、多くの人が住み、さまざまな活動が行われる都市における取り組みがますます重要になっている。国土交通省では、これらの課題に対応するため、「まちづくりGX」として、さまざまな主体との連携のもと、都市の緑地の質・量両面での確保や再生可能エネルギーの導入の支援など、数多の施策を展開している。
今回は、都市生活環境を担当する鎌原国土交通省大臣官房審議官に、同省が進める「まちづくりGX」に基づく施策の最新動向を解説してもらった。
大臣官房審議官(都市生活環境・2027国際園芸博覧会担当) 鎌原宜文氏
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今なぜ「まちづくりGX」か
国土交通省都市局では、わが国の人口減少・少子高齢化や災害の激甚化・頻発化、さらには地球規模の環境問題などを背景に、安全・安心で将来を見据えた持続可能なまちづくりに向けたさまざまな取り組みを推進していますが、その中でも、近年、特に重点的に取り組んでいる政策の一つが、地球規模の環境問題にも対応するための「まちづくりGX」です。
GXといえば、一般的には、気候変動対策のための化石燃料からクリーンエネルギーへの転換という意味で使われることが多いですが、私たちが都市政策で進めている「まちづくりGX」は、「緑地と水辺の空間・インフラ」が気候変動への対応、生物多様性の確保、Well-beingの向上の三つの視点から取り組んでいるところに特色があります。
一つ目の「気候変動への対応」については、都市は人・モノ・エネルギーが集中する場であり、わが国の二酸化炭素排出量の約5割が都市活動に由来しています。また、あまり知られていませんが、東京都区部と政令市だけで全国の民生部門のCO2排出量の3分の1を排出しています。2021年に閣議決定された「地球温暖化対策計画」では、30年度までに13年度比で温室効果ガスを46%削減する目標を掲げていますが、その達成のためにも、都市分野の取り組み、役割というものは非常に大きいと感じています。
また、二つ目の「生物多様性の確保」については、23年に「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定されています。ここでは、30年までに陸域と水域の30%を自然が守られた状態に保全する「30 by 30」(サーティ・バイ・サーティ)の取り組み等により、健全な生態系を確保し、自然の恵みを回復することなどが盛り込まれています。都市部でも、人間の営みだけを優先するのではなく、生態系の損失を食い止め、回復させていく、いわゆるネイチャーポジティブの取り組みが求められています。
三つ目は「Well-beingの向上」です。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の一つにWell-beingの促進が位置付けられており、身体的にも精神的にも社会的にも満たされた状態を指すとされています。公園や緑地、オープンスペース、水辺など、人々のWell-beingに対して、都市行政の果たす役割は大きいと感じており、積極的に取り組んでいきたいと考えています。
この「まちづくりGX」の重要性と三つの視点については、23年に高松市で開催されたG7都市大臣会合においても、「緑地と水辺の空間・インフラ」が気候変動への対応、生物多様性の確保、Well-beingの向上のいずれにも貢献するものであり、各国がその確保と回復に取り組んでいくことが共同声明に取りまとめられるなど、国際的な政策協調としても重要な取り組みとなっています。
緑とオープンスペースの確保
まちづくりGXの主要施策の一つは、「緑とオープンスペースの確保による良好な都市環境の形成」です。具体的には、改正都市緑地法(後述)に基づく緑地の保全や緑化の推進、都市公園の整備を含むグリーンインフラの社会実装等を進め、CO2吸収、生物の生息・生育空間の確保、健康増進等を推進します。
「緑」の重要性については、先に述べた通り、23年に高松市で開催されたG7都市大臣会合においても、「緑地と水辺の空間・インフラ」がまちづくりGXの三つの視点(気候変動への対応、生物多様性の確保、Well-beingの向上)のいずれにも貢献するものであり、各国がその確保と回復に取り組んでいくことが共同声明として取りまとめられたところです。
一方、わが国の都市の緑地の現状を見ると、世界の主要都市と比較しても緑地の充実度は低く、かつ、宅地化の進展等により減少傾向にあります。また、世界的にはESG投資など環境分野への民間投資の機運が拡大していますが、それを十分に活用するためにはさらなる市場環境整備が必要です。
このような状況を踏まえ、昨年5月に都市緑地法等の一部改正を行い、予算・税制措置と併せて都市の緑地の質・量両面での確保を強力に推進することとしました。
都市緑地法等改正のポイント
都市緑地法等改正のポイントは、①国主導による戦略的な都市緑地の確保、②貴重な都市緑地の積極的な保全・更新、③緑と調和した都市環境整備への民間投資の呼び込み、の三つです。
一つ目のポイントは、従来は市町村の取り組みが中心だった緑地行政において、国がもっと前面に出るとともに、都道府県の役割も明確化することです。これまで法定計画は市町村が作成する「緑の基本計画」のみでしたが、国が全国的な緑被率の目標等を含む基本方針を策定し、都道府県は市町村をまたがるような広域性・ネットワーク性を有する緑地を計画的に保全するための広域計画を策定できることとしました。緑の特性として、点在するよりも繋がっている方が、生物の移動や風の道が生まれるなどの効果がより発揮されるからです。国の基本方針は昨年12月に公表しており、市街地について緑被率3割以上を目標とするという、全国的な数値目標を法定の方針として初めて導入しました。
二つ目のポイントは、自治体による緑地の確保・保全の取り組みへの支援の充実です。樹木は成長しすぎると倒木の危険性などが出てくるため、下草狩りのような日常的なメンテナンスとは別に、10~20年に一度「皆伐・択伐」と言われる大規模な手入れを行い、樹林の再生や植生の回復を図る必要があります。これには費用もかかるため、今回、このような皆伐・択伐を「機能維持増進事業」として制度上も位置付け、特に保全の必要性が高い緑地として都市計画で定める「特別緑地保全地区」内で行う場合には、手続きの簡素化とともに都市計画税の充当などを可能にしています。
また、この「特別緑地保全地区」は、貴重な緑のある地域を現状凍結的に保全するという、強い開発規制がかかるもので、その性格上、地権者から買い取りの申し出があった場合には自治体に買い取り義務が生じることになっています。しかし現状では自治体は急にまとまった予算措置ができない、緑地管理のノウハウが不足しているといった課題があり、そのために買い入れが円滑に進んでいない事例が散見されており、それが新規の地区指定を躊躇する理由にもなっています。今回の法改正では、自治体から要請があれば、国が指定する団体が「都市緑化支援機構」として自治体に代わって一括で買い取り、「機能維持増進事業」も行った上で自治体に引き継げる仕組みをつくりました。自治体は後年度に、買い取り費用を平準化して割賦で支払えばよいことになります。
三つ目のポイントは、民間投資の呼び込みです。都心では民間事業活動の中で緑が生み出され、一部地域では緑被率が向上するという好事例が出てきたので、国としてこの流れを後押ししたいと考え、企業等による良質な緑地確保の取り組みを国土交通大臣が認定する制度「優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)」を創設することにしました。認定された取り組みに対しては、都市開発資金の無利子貸付や補助金などの支援を行います。
また、今回、都市再生特別措置法も改正し、TSUNAG認定と似た仕組みで都市の脱炭素化に資する民間都市開発事業(脱炭素都市再生整備事業)を国が認定する制度も創設しました。認定された優良な事業には、民間都市開発推進機構による金融支援や予算支援を行います。